【報告】令和6年度岐阜大学応用生物科学部 『武者修行』
報道 2025年11月21日
応用生物科学部では、研究の質の向上や学際性・国際性の発展を目的とした若手教員(准教授及び助教)を国内外の研究拠点に派遣する、学部独自の派遣事業(応用生物科学部武者修行)を実施しています。
伴侶動物の副腎疾患研究を発展させるため、副腎髄質腫瘍オルガノイドについての研究手法を習得する
永田矩之 准教授(共同獣医学科)
期間:令和7年9月22日〜10月6日
派遣先:ユトレヒト大学(オランダ)
伴侶動物臨床において副腎腫瘍は日常的に遭遇する疾患であるが、臨床像の多様性から正確な診断が難しく、また手術以外に有効な治療法がないことが課題となっている。オルガノイドは、「器官(organ)」と「類似したもの(-oid)」を組み合わせた造語であり、幹細胞から実際の組織や臓器に類似した機能をもつ三次元構造を誘導したものである。従来の二次元細胞培養と比較して、細胞の構造的特徴、分化能、および機能性をより保持できるため、疾患モデルや薬剤スクリーニングの有力なツールとして期待されている。ユトレヒト大学のDr. Galacは、伴侶動物の内分泌学、特に副腎腫瘍研究の第一人者であり、同グループは世界で初めて副腎髄質腫瘍のオルガノイドを樹立した。今回の渡航では、筆者の専門分野である伴侶動物の副腎疾患研究をさらに発展させるため、Dr. Galacのもとで副腎髄質腫瘍オルガノイドの培養技術を習得し、免疫組織化学を用いて副腎腫瘍の分子特性を解析した。
Dr. Galacのグループはこれまでに犬の副腎髄質腫瘍および正常副腎髄質のオルガノイド樹立に成功しているが、継代の過程で増殖能やホルモン分泌能が低下することが課題であり、将来的な薬剤スクリーニングや新規治療の開発に向けて、より安定したin vitroモデルの基盤構築が必要であった。今回の渡航では、この課題克服に向けて、成長因子の組み合わせや培地組成の最適化について検討した。2週間という短期間であったため全行程を経験することはできなかったが、副腎髄質腫瘍オルガノイドの継代培養を実際に経験できたことは、今後自身がオルガノイドを用いた研究を行う上で非常に貴重な経験となった。また、オルガノイドの構造および機能解析として、各継代過程および各オルガノイドにおいて分化マーカーや増殖マーカーを用いた免疫組織化学を行い、オルガノイドの特性を評価した。研究室には臨床分野だけでなく、バイオインフォマティクスや分子生物学の専門家も在籍しており、基礎研究と臨床研究が非常に近い距離感で連携している点が印象的であった。
ユトレヒト大学はオランダで唯一の獣医学部を有し、国内に連携できる獣医系大学が存在しないため、医学系大学との共同研究が活発である。この点は、中部地方で唯一獣医学科を有する岐阜大学の状況と類似しており、トランスレーショナルリサーチ推進のモデルケースになると感じた。特に、ユトレヒト大学は動物病院と医学部病院に加え、小児がんセンター(Princess Máxima Center for Pediatric Oncology)やオルガノイド研究で国際的に高い評価を受けている研究所(Hubrecht Institute)が隣接しており、所属の異なる研究者間で活発な共同研究を行う環境が整っていた。これは岐阜大学の立地条件とも共通点が多く、今後の研究体制構築のモデルにもなると強く感じた。
本研修を通じて得られた知見を活かし、今後は岐阜大学における副腎オルガノイド研究の体制整備と発展を目指すとともに、ユトレヒト大学との研究連携をさらに進め、犬の副腎疾患を対象とした分子病態解析や新規治療法開発を推進していく予定である。さらに、他臓器・他動物種への応用やトランスレーショナルリサーチへの展開も視野に入れて研究を進めていきたい。短い期間ではあったが、最先端の研究環境に身を置くことで得られた経験と刺激は大きく、今後の研究活動における糧となった。
![]() ユトレヒト大学獣医学部のシンボル |
![]() ユトレヒト大学動物病院(右)と研究室(左)の外観 |
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![]() Dr. Galacとユトレヒト大学動物病院にて |
![]() Dr. Galacの同僚であり伴侶動物内分泌学の第一人者のDr. Kooistraと |
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![]() 研究室でオルガノイドの免疫組織化学をvan Wolferen先生と |
![]() 副腎髄質オルガノイド研究者のvan den Berg先生(座長)と派遣前に参加した学会にて |
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![]() Hubrecht Instituteにてオルガノイド研究者のDr. Speeと |
![]() Dr. GalacとAbiとディナー |








