国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Masatani et al., 2020 PI / Morikawa et al., 2021 TTBDIS

Molecular detection of tick-borne protozoan parasites in sika deer (Cervus nippon) from western regions of Japan

(西日本のニホンジカにおけるマダニ媒介性原虫の遺伝子検出)

Masatani et al., Parasitol. Int. 74:101995, 2020

Detection and molecular characterization of Babesia sp. in wild boar (Sus scrofa) from western Japan

(西日本のイノシシからのバベシア検出と遺伝子解析)

Morikawa et al.,Ticks Tick Borne Dis. 12(4):101695, 2021

バベシア(Babesia)属及びタイレリア(Theileria)属に含まれる原虫はピロプラズマと称され、いずれもマダニによって媒介されます。ピロプラズマの中には動物及び人に、時に重篤な貧血・熱性疾患をひきおこす種も含まれるため、その分布や宿主との関連を調べることが重要です。特に海外では、野生動物(ネズミや鹿)由来のバベシアが人や家畜に病害をもたらすことが示されています(図1)。しかし、日本の野生動物におけるピロプラズマの分布状況や種類に関する報告は少ないのが現状です。本研究では、南九州地方の野生動物におけるマダニ媒介性原虫の分布状況を明らかにすることを目的とし、同地域の野生動物(シカ及びイノシシ)が保有する原虫遺伝子を汎住血原虫検出PCRにより検出し、その遺伝学的解析を実施しました。

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2013-2019年にかけて、山口、大分、鹿児島、岡山、愛媛、高知、徳島より、合計276個体分のニホンジカの血液または肝臓を採集しました。2015-2018年にかけて、山口県、鹿児島県および長崎県・対馬より、合計219個体分のイノシシの肝臓または血液を採集しました。これらはいずれも狩猟捕獲または有害鳥獣駆除個体のものを収集することで得られました。これらより抽出されたDNAをもとに、ピロプラズマ特異的Nested-PCRにより原虫遺伝子の増幅を試みた。得られた遺伝子配列について、系統解析を行ないました。

ニホンジカについては、全検体のうち259検体がPCR陽性となり(93.8%)、これらのうち99.6%(258検体/259検体)は全て同一種の未同定タイレリア(Theileria sp. (sika1))であり、陽性率に地域性は認められませんでした。また、これらのうち3検体は、別種の未同定タイレリア(Theileria sp. (sika2))との混合感染でした。また、鹿児島の1個体からは、未同定のバベシア(シベリア西部のマダニより検出されたものに近縁)の遺伝子が検出されました。以上より、西日本に生息するニホンジカの大多数がTheileria sp. (sika1)を保有していることが示されました。

イノシシについては全検体のうち140検体がPCR陽性となり(63.9%)、全て同一の配列であったため、単一種の未同定バベシア(Babesia sp.)と判定しました。いずれの地域においても陽性率は39-84%の範囲であり、対馬において高い傾向が見られました(84%)。遺伝子解析の結果、このバベシアは近年鹿児島において申請者らがタカサゴキララマダニより検出したものと同一種であることから、本マダニをベクターとしている可能性が示されました。更なる系統解析の結果、このバベシアは既知のバベシア種のうち、犬のバベシアであるBabesia gibsoniと近縁であることが示されました。