国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

研究内容

狂犬病ウイルスに関する研究

狂犬病ウイルスは、全ての哺乳類に感染する(犬だけではない!)人獣共通感染ウイルスです。感染動物の唾液中のウイルスが咬傷から侵入し伝播成立すると、重篤な神経症状を伴う脳炎が引き起こされます。発症後の致死率はほぼ100%であり、治療法は確立されていません。幸いなことに我が国では狂犬病が撲滅されましたが、未だ全世界に広く分布しており、途上国を中心に年間推定死者数は5.5万人にものぼります。狂犬病は、ワクチン接種により予防することが可能です。しかし、途上国への普及や、野犬・野生動物への接種が困難であり、これらが狂犬病撲滅の障壁となっています。当研究室では、狂犬病ウイルス遺伝子操作技術を駆使することで、狂犬病ウイルス病原性発現機序の解明と、安全・安価かつ効果的な狂犬病ワクチンの開発に向けた研究を行っています。

狂犬病ウイルス病原性発現機構に関する研究

私達は、狂犬病ウイルスがどのような機序で致死的な脳炎を起こすかを分子レベルで解明することを目指しています。解明された機序を阻害する方法が見つかれば、本病を治療することができるようになると考えられます。具体的には、免疫回避メカニズム、細胞内複製機構、および生体内におけるウイルス感染動態について研究を進めています。

最近の発表論文:Kojima et al. 2022Kojima et al. 2021Takahashi et al. 2020

安全・安価かつ効果的な狂犬病ワクチンの開発

狂犬病が大きな問題となっている発展途上国では、経済的な理由からワクチン接種が十分に普及していません。私達は、狂犬病ウイルスの遺伝子操作を用いて、安全、安価かつ効果的な狂犬病ワクチンの開発を目指しています。従来よりも安価なワクチンが開発されれば、世界的な狂犬病の撲滅への大きな推進力となると考えられます。

最近の発表論文:Ito et al. 2021

ロタウイルスに関する研究

ロタウイルスは、主に乳幼児・幼若動物に重篤な下痢を主徴とする急性胃腸炎を起こすウイルスです。全世界に広く分布し、人の乳幼児冬期下痢症の主な原因となっています(5歳までにほぼ全ての子供が感染)。世界における年間の推定死亡乳幼児数は60万人にのぼるとされており、厚労省によると日本でも年間80万人の幼児・未就学児童が罹患していると推計されています。ロタウイルスは鳥類およびほぼ全ての哺乳類に感染しますが、それぞれの動物種に固有の遺伝子型のウイルスが存在しています。しかし、宿主種間伝播の報告も多数あり(例:牛ロタウイルスが人に感染)、人獣共通感染症の病原体としても注目されつつあります。私達の研究室では、「ロタウイルスがいかに宿主の壁を突破して種間伝播し、自然界を循環しているのか」を命題とし、研究を進めています。

自然界におけるロタウイルスの生態解明

これまで、ロタウイルスは様々な動物から分離されています。近年では動物種を越えた感染が起きている可能性が報告されていますが、その実態は明らかではありません。私達は、様々な動物(家畜、野生動物)におけるロタウイルスの動きを遺伝子レベルで追うことで、種を越えた感染メカニズムの解明や、自然界における本ウイルスの生態解明を目指しています。このような研究で得られた情報は、ロタウイルス感染症の流行予測や防疫対策を実施する上で重要と考えられます。

最近の発表論文:Fujii et al. 2022aFujii et al. 2022b

ロタウイルス遺伝子操作技術を駆使した基礎研究・ワクチン開発

近年、これまで困難とされてきたロタウイルス遺伝子操作技術が確立され、ロタウイルスの生物学的性状が解明されつつあります。当研究室でも遺伝子操作技術を導入することで、種間伝播メカニズムの分子メカニズム解明を目指すとともに、本技術を利用した新規ワクチン開発を目指した研究を開始しています。

最近の発表論文:Kanda et al. 2022

節足動物媒介ウイルスに関する研究

人獣共通感染症や家畜感染症の中には蚊やマダニといった節足動物がウイルスを媒介して起こるものも多数含まれており、時には致死的な疾患を引き起こすものもあるためそのコントロールは重要です。当研究室では、これらウイルスの病原性発現メカニズムを明らかにすることで、ワクチン開発や防除法の開発の一助となる知見を蓄積すべく研究を行なっています。

反芻獣に異常産を起こすブニヤウイルスに関する研究

アカバネ病はヌカカや蚊が媒介する牛・山羊の疾病であり、ブニヤウイルス目に属するアカバネウイルスによって引き起こされます。人には感染しませんが、妊娠牛に感染すると死流産や胎仔に奇形を起こすため問題となります。また、異常産だけでなく、子牛や育成牛に脳脊髄炎を起こし起立不全や運動失調などを引き起こす生後感染型のウイルス株も存在しています。当研究室では、狂犬病ウイルスの研究で培ってきたウイルス遺伝子操作技術をアカバネウイルスや近縁のブニヤウイルス(アイノウイルス、ピートンウイルスなど)の研究に導入し、ウイルスの病原性メカニズム解明に向けた研究を行っています。

原虫病に関する研究

当研究室ではウイルス以外にも、以下の原虫(単細胞の寄生虫)に関する研究も行っています。

トキソプラズマ

加熱不足の食肉(とくに野生動物)や、猫の糞便に含まれる虫体を経口的に摂取することで感染します。健康な人に感染しても殆ど影響ありませんが、免疫不全の方に感染すると脳炎や網膜炎などを起こします。トキソプラズマに感染したことのない女性が妊娠中に初めて感染すると、トキソプラズマの胎児への移行を免疫により防ぐことができないため、水頭症や視力障害など先天性障害が起こることがあります。当研究室では、本学獣医寄生虫学研究室や帯広畜産大学原虫病研究センターと共同で、本原虫の発育ステージ調節メカニズムに関する研究や、トキソプラズマ感染マウスにおける生体応答について研究しています。

ピロプラズマ

哺乳類の赤血球に感染し、貧血などを引き起こす原虫のうち、バベシア(Babesia)とタイレリア(Theileria)と呼ばれるグループの総称です。いずれもマダニと哺乳類の間で生活環を形成しており、マダニが吸血する際に動物体内へ侵入し、感染します。日本では、牛に感染するものや犬に感染するものが知られていますが、中には人にも感染する原虫種も存在し、日本各地の野生動物(ノネズミなど)でも確認されています。当研究室では、野生動物・家畜、マダニにおけるピロプラズマ類原虫の探索や、帯広畜産大学原虫病研究センターと共同で、人獣共通感染バベシア(Babesia microti)の病原性解明に向けた研究を実施しています。

最近の発表論文:Morikawa et al. 2021、Masatani et al. 2020