国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Izumi and Miyamoto et al. Vaccine 2023

Generation and characterization of a genetically modified live rabies vaccine strain with attenuating mutations in multiple viral proteins and evaluation of its potency in dogs

複数のウイルス蛋白質に弱毒変異を保有する遺伝子組換え狂犬病生ワクチン株の作出と性状解析ならびにイヌにおけるそのワクチン効果の評価

Izumi and Miyamoto et al. Vaccine 2023

狂犬病の被害が集中する発展途上国では、人と生活圏を共有するイヌが主要な感染源となっています。したがって、狂犬病制圧のためには、イヌへのワクチン接種が重要です。経口生ワクチンは、不活化ワクチンと比べて容易に犬集団に免疫を付与できることから、発展途上国における犬へのワクチン接種法として適しています。しかし、生ワクチンには、病原性の復帰や残存のリスクといった安全面の懸念があります。そのため、高い安全性を有する経口生ワクチン株の開発が求められています。

これまでの様々な研究により、N蛋白質273位および394位におけるロイシンおよびヒスチジン変異、G蛋白質194位におけるセリン変異、ならびに同蛋白質333位におけるロイシン変異が生ワクチン株の安全性を高める弱毒変異であることが報告されています。私たちは、これら4つの弱毒変異を組合せることで、高度かつ安定的に弱毒化された新規経口生ワクチン株を作出できると考えました。

狂犬病ウイルスの遺伝子操作系を活用することで、野生動物用経口生ワクチン株であるERA株に上記の4つの弱毒変異を導入し、ERA-NG2株を樹立しました(図1)。ERA-NG2 1.jpeg

マウスを用いた性状解析により、ERA-NG2株は病原性を消失していること、ならびに市販の経口生ワクチン株のモデルであるERA-G333Glu株と同等の免疫原性を有していることを明らかにしました。また、哺乳マウス脳での連続継代を行った結果、ERA-G333Glu株は病原性が復帰したのに対して、ERA-NG2株は弱毒性状を保ったままでした。この結果は、ERA-NG2株が市販の経口生ワクチン株よりも安定的に弱毒化されていることを示しています。

さらに、我々はERA-NG2株のイヌに対するワクチン効果の検証を行いました。その結果、ERA-NG2株は、イヌに対しても臨床症状を引き起こすことはなく、中和抗体の産生を誘導することが確認されました(図2)。

ERA-NG2 2.jpeg

以上の結果は、ERA-NG2株が犬用経口生ワクチン候補株として有望であることを示すと同時に、ワクチン開発における複数のウイルス蛋白質に弱毒変異を導入することの有用性を示しています。