国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Fujii et al. JGV 2022b

Molecular Characterisation of a Novel Avian Rotavirus A Strain Detected from a Gull Species (Larus sp.)

(カモメ属の鳥種から検出された新型鳥類ロタウイルスA株の遺伝学的解析)

Fujii et al., J. Gen. Virol., 2022

ロタウイルスA(RVA)は、ヒトを含む哺乳動物・鳥類の幼若個体に下痢などの急性胃腸炎を引き起こす病原体として知られています。RVAは11 本の分節状RNAをゲノムとして持ちます。RVAの各分節は、ロタウイルスの遺伝子型分類機関であるRCWGによって設定された基準値に基づいて遺伝子型分類されます。この分類法の普及によって、遺伝学的に類似した性状を持つ鳥類RVA株が世界各地に分布していることが明らかとなっています。近年、我々は、これらの遺伝学的に近縁な鳥類RVA株の広域拡散に渡り鳥が関与した可能性を報告しました(Fujii et al., J. Gen. Virol., 2022)。このことから、野外において渡り鳥が鳥類RVAの感染源としての役割を担っている可能性が考えられます。しかし、渡り鳥のRVAを対象とした研究はほとんどないため、どのようなRVA株が渡り鳥の間で維持されているのかは未だに不明です(図1)。

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本研究では、渡り鳥由来RVA株に関する知見を得るために、渡り鳥であるカモメ属(Larus sp.)の糞便から検出されたRVAであるHo374株の遺伝子性状を解析しました。相同性解析の結果、全11遺伝子においてHo374株と既知のRVA株の相同率は、RCWGの定める基準値を下回ったため、本株の全遺伝子分節は新しい遺伝子型と推定されました。そこで、RCWGに申請したところ、Ho374株の遺伝子は、すべて新しい鳥類RVAの遺伝子型に分類されました(図2)。本結果より、カモメ属の鳥種に、既知のRVA株とは異なる遺伝子性状の鳥類RVA株が感染していた可能性が示されました。

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以上、カモメ属由来RVA株の遺伝学的解析により、自然界におけるRVAの遺伝的多様性が従来認識されていたよりも大きいことが明らかとなりました。今回の知見は、渡り鳥におけるRVAのさらなる調査の必要性を示しています。

本研究は、北海道医療大学薬学部 岡崎克則博士、北海道大学大学院獣医学研究院 迫田義博博士、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 高田礼人博士、鹿児島大学共同獣医学部 小澤真博士との共同研究として実施されました。