Journal club
当研究室では、VETERINARY ANAESTHESIA and ANALGESIAに掲載されている研究論文を中心に、各担当者が翻訳・発表を行い、定期的に意見交換を行なっております。Journal clubは、論文の読み方・書き方を学ぶだけでなく、日々の臨床への知識還元、研究への還元を目的に行なっております。
2025年01月26日実施(担当:土肥)
Early exposure to environmental enrichment protects male rats against neuropathic pain development after nerve injury
環境エンリッチメントへの早期暴露は、神経損傷後の神経障害性疼痛発症から雄ラット を保護する
Kimura, Louise Faggionato et al.
Experimental neurology vol. 332 (2020): 113390.
要旨:環境要因が慢性疼痛の発症に与える影響と、体内に備わる痛み制御機構の役割を明らかにするため、本研究では環境エンリッチメント(EE)のへの早期暴露に対する効果を検討した。若い雄ラットを豊富なE Eで育成し、坐骨神経の慢性絞扼損傷(CCI)を用いて痛みモデルを作成した。その結果、EEで育てられたラットはCCI後14日目に痛み行動が完全に消失した。さらに、EE群では体内の痛み抑制物質であるβエンドルフィンやメトエンケファリンの血中濃度の増加が確認された。また、神経損傷の指標であるATF-3の増加が抑制されており、坐骨神経線維の保護も認められた。これらの結果から、EEは慢性疼痛の発症を防ぐ重要な役割を果たしており、慢性疼痛発症の予防における内因性メカニズムの重要性を補強した。
感想:実験動物において、症状の改善や病気の発症予防を目的とした非薬理学的な介入として、環境エンリッチメントが「ゴールドスタンダード戦略」であると本研究で指摘されています。本研究では、環境エンリッチメントが慢性疼痛モデルにおける疼痛緩和効果を示し、その応用可能性が人医療においても期待されています。一方で、臨床獣医学の領域においては、環境要因が疼痛緩和に与える影響についての報告はほとんど見当たりませんでした。手術後の動物などに対しても、同様の現象が期待できる可能性を考えると、入院や術後管理における最適な環境について再考する必要があるのではないかと感じました。
2024年11月07日実施(担当:土肥)
Sevoflurane enhances autophagy via Rac1 to attenuate lung ischaemia‒reperfusion injury
セボフルランはRac1を介してオートファジーを促進、肺虚血再灌流障害を軽減する
Ding X, Gao X, Ren A, et al.
Chemico-biological interactions vol. 397 (2024):111078
要旨:セボフルランは肺虚血再灌流障害(LIRI)を軽減するが、そのメカニズムは不明である。本研究では、動物モデルでLIRIを作成し、セボフルラン投与後にトランスクリプトーム解析を行った。さらに、BEAS-2B細胞を低酸素再酸素化(H/R)およびセボフルラン治療に用い、炎症性サイトカイン、アポトーシス、オートファジー関連分子を測定した。セボフルランは動脈血酸素分圧の低下や肺組織損傷、炎症(IL-1β、IL-6、TNF-αの上昇)、アポトーシス(切断型カスパーゼ3上昇)およびオートファジー阻害を改善した。細胞実験では、Rac1過剰発現トランスフェクションやオートファジー阻害(3-MA)がセボフルランの炎症およびアポトーシス抑制効果を阻害した。本研究は、セボフルランがRac1/PI3K/AKT経路を介してオートファジーを促進し、LIRIを軽減することを示している。
感想: 人の臨床麻酔領域では、将来的には吸入麻酔から完全静脈麻酔(TIVA)へと置き換わってゆくのであろうという先入観を持っていました。しかし、本論文や関連する論文を調べる中で、臨床の場において吸入麻酔とTIVAのどちらが優れているかについて、いまだ結論が出ていないという現状を知り、認識を改める契機となりました。また、吸入麻酔には麻酔作用以外にも未知の生物学的効果が存在する可能性が示唆されており、この点についても非常に興味を惹かれました。本研究の発見が今後の麻酔選択に与える影響について考えるとともに、基礎研究の重要性を改めて実感しました。
2024年6月20日実施(担当: 棚橋)
2024年6月13日実施(担当: 諫山)
Preperitoneal ropivacaine infusion versus epidural ropivacaine-morphine for postoperative analgesia in dogs undergoing ovariohysterectomy: a randomized clinical trial
避妊手術を受けた犬の術後鎮痛におけるロピバカイン腹膜前腔持続投与とロピバカインとモルヒネによる硬膜外麻酔の比較:無作為化臨床試験
Veterinary Anaesthesia and Analgesia
Volume 48, Issue 6, November 2021,
Pages 935-942
要旨
目的:避妊手術を受ける犬において、術後鎮痛に対するロピバカイン腹膜前腔持続投与(CWI)の効果を評価し、ロピバカインとモルヒネによる硬膜外麻酔と比較すること。
研究デザイン:並行、無作為、臨床、前向き、非盲検試験。
対象動物:雌のグレーハウンド38頭。
方法:CWI群では、手術切開部上の腹膜前腔に対して、ロピバカイン1mg/kgのち0.8mg/kg/hrによるCWIを行った。硬膜外投与群では、ロピバカイン1.3mg/kgとモルヒネ0.1mg/kgを硬膜外に投与した。麻酔前と抜管後2、4、6、18、21、24時間後に、ダイナミックインタラクティブ視覚的アナログスケール(DIVAS)とグラスゴー複合測定疼痛スケール(CMPS-SF)を用いて疼痛をスコア化した。ダイナモメーターを用いた機械的創傷部疼痛閾値(MWTs)も同時に評価した。血漿中ロピバカイン濃度、コルチゾール濃度、鎮静の程度、運動麻痺、趾間を鉗子で挟むことに対する反応を測定・評価した。データの解析には、二元混合分散分析とMann-Whitney U検定を用いた。
結果:DIVASスコア(p = 0.301)、CMPS-SFスコア(p = 0.600)、MWT測定値(p = 0.257)、コルチゾール値(p = 0.878)に群間差は認められなかった。抜管2時間後に各群1頭ずつ、計2頭でレスキュー鎮痛が必要となった。硬膜外群では2、4、6時間後に鎮静、運動麻痺、感覚麻痺が観察された。血漿中ロピバカインの平均値は、硬膜外群よりCWI群の方が高かった。
結論:ロピバカイン-モルヒネの硬膜外麻酔と比較して、腹膜前腔へのロピバカインCWIは、運動麻痺を伴わず、避妊手術を受けた犬の術後疼痛管理に有効な鎮痛法である。
感想
CWIという疼痛管理方法をこの論文で初めて知ったため、興味深い内容でした。避妊手術の疼痛管理に対して、去勢手術時の精巣ブロックのような確立した局所麻酔がはっきりしないイメージがなかったため、避妊手術に対して硬膜外麻酔の他の手段として、局所麻酔の有効な選択肢が示されていることは大変興味深かったです。
2024年5月23日実施(担当: 土肥)
Intraoperative Isoflurane End-Tidal Concentration during Infusion of Fentanyl, Tramadol, or Fentanyl-Tramadol Combination in Cats
猫におけるフェンタニル、トラマドール、またはフェンタニルとトラマドールの併用投与中の術中のイソフルラン呼気終末濃度
Veterinary Sciences 2024, 11, 125.
要旨: この研究では、卵巣子宮摘出術を受ける猫に対して、手術中にフェンタニル単独投与、トラマドール単独投与、およびフェンタニルとトラマドールの併用投与を行い、猫の術中イソフルラン呼気終末濃度(イソフルランの節約効果)、臨床パラメータ、術中の抗侵害受容効果、および術後の鎮痛が評価されました。 フェンタニル/トラマドールの併用では、手術中の呼気終末イソフルラン画分の減少と術中および術後の鎮痛効果がより優れていました。単独で使用した2つの薬剤の間に差は見つかりませんでした。 この研究の結果は、フェンタニルとトラマドールの併用が、卵巣子宮摘出術を受ける猫における実行可能な代替麻酔プロトコルとして提案できることが示唆された。
感想:フェンタニルとトラマドールの併用によって相乗効果が得られたという結果は非常に興味深いものでした。トラマドールは麻薬指定されていないため、使用が容易であるという利点もあり、今後もその利用方法について理解を深めてゆきたいと思いました。
2024年5月16日実施(担当: 目黒)
Efficacy of dexmedetomidine as adjuvant to bupivacaine in femoral-sciatic
nerve blocks in dogs undergoing tibial plateau levelling osteotomy (TPLO)
Research in Veterinary Science 2023.1
要旨: 本ランダム化前向き臨床試験の目的は、犬の坐骨および大腿神経ブロックにおいて、ブピバカインと併用したデクスメデトミジンの有効性を評価することであった。片側のTPLOを実施する30匹に犬が組み込まれ、それぞれの犬は、神経周囲に0.5%ブピバカイン(0.1ml/kg)と筋肉内にデクスメデトミジン(0.5µg/kg)を投与するBDsグループ、神経周囲に0.5%ブピバカイン(0.1ml/kg)とデクスメデトミジン(0.5µg/kg)を投与するBDlocグループ、神経周囲に0.5%ブピバカイン(0.1ml/kg)と筋肉内に生理食塩水を投与するBupiグループに、ランダムに割り当てられた。神経ブロックは電気刺激ガイド下で行われた。主な周術期のパラメータは、手術が始まる10分前(BASE)、切皮時(SKIN)、骨切り時(BONE)縫合中(SUTURE)に記録された。神経ブロックの2,4,6,7,10,15,20,24時間後に、術後期間の疼痛の程度をグラスゴー複合ペインスケール(GCPs)にて評価した。スコアが5/20以上となった症例については、レスキュー鎮痛を行い評価対象から除外した。さらに、心拍数、平均動脈圧、歩行能力、傷に触れた際の反応、大腿および坐骨の皮膚の敏感性を記録した。パラメトリックデータは、それぞれの測定時点ごとで比較した。反復測定値はone-way ANOVA、はい/いいえ変数分析はフィッシャー検定を実施した(P<0.05)。いずれの症例も術中にレスキュー鎮痛を必要としなかった。BDlocグループでは、どの時点でもすべての犬でGCPs<5/20となり、70%の犬で全身鎮痛を必要としなかった。BupiおよびBDsグループでは、100%の症例でブロックの8及び10時間後の間でスコアが≧5/20に達し、100%の症例で大腿および坐骨の皮膚の敏感性を示し、10時間以内にレスキュー鎮痛を必要とした。本研究結果から、TPLOを実施する犬において、大腿坐骨神経ブロックにブピバカインのアジュバントとしてデクスメデトミジンを加えることで、感覚ブロックが延長し、24時間後まで十分な鎮痛を保証することが示唆された。
感想: 岐阜大学動物病院の鎮痛プロトコルを日頃見ていて、手術において痛みが出る場所に直接作用してその痛みを抑える方法である神経ブロックは、他の全身鎮痛の方法と比較してもダイレクトに作用が発揮される分、かなり有効性が高い鎮痛方法であると感じていました。アジュバントの添加によってその作用時間を延長できるかもしれないという研究が獣医領域で進んでいるというのは、日頃からその有効性に反して作用時間が短いことに少なからずもどかしさを感じていたからこそ、とても魅力的に感じました。今後さらなる研究が進むことに期待したいです。
2024年4月25日実施(担当: 棚橋)
A preliminary study comparing the sedative, cardiorespiratory, and histaminic-releasing effects of intramuscular and intravenous administration of pethidine (meperidine) with midazolam in healthy cats
Veterinary and Animal Science. 2021, 14
要旨: ペチジンは短時間作用のオピオイドで、先行研究により血漿ヒスタミン誘発作用を持つことが報告されています。本研究では、ペチジンとミダゾラムを併用することで、健康な猫における鎮静作用、心血管系作用、ヒスタミン放出作用を評価することと、投与経路の違いによるヒスタミン放出作用の違いを明らかにすることを目的としました。
感想: 人の医療ではペチジンはシバリング抑制に使用されているが、まだ犬猫ではその効果があきらかになっていません。しかし、安全性が確認できれば、鎮痛とシバリング抑制が同時に行えるという一石二鳥の効果が期待できます。この論文では、心血管系に障害のある猫ではヒスタミン誘発性低血圧のリスクがあるとのことだったので、犬におけるヒスタミン放出がどれくらいなのか、ヒスタミン濃度の経過はどのようになるのか、その機序はどのようなものなのか、今後も注目していきたいと思いました。
2024年4月18日実施(担当: 諫山)
Effects of tasipimidine premedication with and without methadone and dexmedetomidine on cardiovascular variables during propofol-isoflurane anaesthesia in Beagle dogs
ビーグル犬において、メサドンとデクスメデトミジンを併用、および併用しなかった際にタシピミジン前投与がプロポフォール・イソフルラン麻酔中の心血管系に及ぼす影響
Veterinary Anaesthesia and Analgesia Volume 51, Issue 3, May-June 2024, Pages 253-265
目的: プロポフォール・イソフルランで麻酔される犬において、タシピミジン経口投与が心血管系に与える影響を、メサドンとデクスメデトミジンを同じ麻酔レベルで併用した場合と併用しない場合で、評価すること。
試験デザイン:前向き、プラセボ対照比較、盲検化実験。
動物: 体重(平均±標準偏差)12.4±2.6 kg、平均年齢20.6±1ヵ月のビーグル、成犬7頭。
方法: プロポフォールによる麻酔導入の60分前に受ける処置の種類として4種類設けた。
PP: プラセボ経口およびプラセボ(NaCl 0.9%)静脈内投与
TP: タシピミジン30 mg/kg経口およびプラセボ静脈内投与
TMP: タシピミジン30 mg/kg経口およびメサドン0.2 mg/kgを静脈内投与
TMPD: タシピミジン30 mg/kgを経口投与し、メサドン0.2 mg/kgおよびデクスメデトミジン1 mg/kgを静脈内投与した後、1 mg/kgを1時間投与した。
結果: タシピミジンは心拍数および心拍出量を20~30%有意に低下させ、平均動脈圧(10~15%)、組織血流量(40%)および組織酸素飽和度(43%)を低下させた。血圧と酸素濃度の変動は主にプロポフォール・イソフルラン麻酔によるものであり、その前にデクスメデトミジンに関連した短時間の変化がみられた。
結論: タシピミジンにより軽度から中等度の心血管系抑制が認められた。タシピミジンは、その心血管系への影響を考慮し、心肺機能をモニターすれば、健康な犬において有害な影響を及ぼすことなく一般的な麻酔プロトコルに組み込むことができる。
感想: タシピミジンは経口投与される新規のα2作動薬で、日本ではまだ全く取り扱いが無い状態であるため、とても興味深い内容の論文でした。タシピミジン投与により、平均動脈圧が変動するほどの血管収縮作用は認められていないが、組織血流量、組織酸素飽和度、組織ヘモグロビン量が低下しており、微小血管レベルでの血管収縮の徴候が認められている、という結果が興味深かったです。今後の研究で、犬においてのタシピミジンの受容体解析を行い、犬においてどのようにα受容体に作用しているのか詳しく解明されれば、さらに深い考察ができて、臨床的に使用する薬剤の組み合わせについても色々考えられるのではないかと思いました。
2024年3月21日実施(担当: 目黒)
The effect of body condition on alfaxalone induction dosage requirement in dogs.
Open Veterinary Journal 2023.9.26
背景: アルファキサロンは獣医麻酔において、全身麻酔の導入薬として一般的に使用されている。しかしαは用量依存的に心血管抑制に関与する。ゆえにαのような脂肪性の注射用麻酔薬の導入は、LBM(除脂肪体重)に基づいて行うことが推奨される。
目的: 犬に気管挿管が可能となるα(静脈内投与)の要求量に対するBCSボディコンディションスコア)の影響を調べる。
方法: 前向き臨床研究。診断や手術のために全身麻酔を行う犬34匹で、体重>4kg、BCS>2、1~14歳齢、ASA分類Ⅰ~Ⅲとした。犬はBCSに応じて2つの異なるグループに割り当てられた;非過体重グループ(NOW)はBCS3~5、過体重グループ(OW)はBCS6~9とした。すべての犬は麻酔前投薬としてメサドン0.2mg/kgをIVし、シリンジポンプによりα1mg/kg/mをIVで緩徐に投与して導入した。顎緊張が消え、喉頭反射がなくなる/最小限となり、気管挿管が十分可能となる深度まで達した。αの総投与量と導入後の無呼吸の有無について記録した。正規性検定にはシャピローウィルク検定、導入後の無呼吸発生の比較にカイ二乗検定、α導入量の比較にはマンホイットニーのU検定を実施した。P<0.05で有意差ありとした。
結果: αの導入量(平均値±SD)はNOWで2.18±0.59mg/kg、OWで1.63±0.26mg/kgであった(P=0.002)。鎮静スコアに差はなかった。導入後の無呼吸はNOWで6/17、OWで15/17であった(P=0.002)。
結論: 気管挿管を可能にする全体重当たりのαのIV量は、過体重の犬で低かった。このことから、注射用麻酔薬の計算にはLBMを考慮するべきであることが示唆された。α1mg/kg/mにおいて、導入後の無呼吸発生は過体重の犬で多かった。
感想: アルファキサロンは岐阜大学動物病院においても、同じ導入薬であるプロポフォールに並んで頻繫に使用している麻酔導入薬です。この論文とは別で、プロポフォールが脂肪の量によって要求量が変わるという論文を読んだことがあったので、アルファキサロンはどうなのだろうかと思って調べたのが、この論文を見つけるきっかけでした。脂肪量で要求量が変わるという情報がひとつあることで、肥満の子ではより少量で導入が済むかもしれないという意識の上で麻酔導入することができるため、本研究で得られたものは麻酔の副作用を減らすひとつの利点となるかもしれないなと感じました。
2024年3月14日実施(担当: 土肥)
ntravenous infusion of amino acids in dogs attenuates hypothermia during anaesthesia and stimulates insulin secretion
全身麻酔中の猫の体温に及ぼす分岐鎖アミノ酸の単回静脈注射の影響
Veterinary Anaesthesia and Analgesia 2024, 51, 44e51
要旨:
研究の目的:全身麻酔中の猫の体温に及ぼす分岐鎖アミノ酸(BCAAs)の1 回の静脈内注射の影響を評価する。
研究デザイン:前向き、盲検、ランダム化、クロスオーバー、実験研究。
動物:健康な成猫計10匹(メス5匹、オス5匹)。
方法:猫は、ランダムな順序で 3 つの異なる治療法で 3 回麻酔をかけられた。麻酔導入直前に、3 mL/kg 乳酸リンゲル液(LRS)、100 mg/kg BCAA (B100)、または 200 mg/kg BCAA (B200) 溶液が投与された。麻酔導入後、直腸温を 5 分ごとに測定した。導入直前、90 分間の麻酔期間の終了時、および麻酔導入の 24 時間後に、血液採取を行い血糖(BG)の測定が行われた。麻酔導入時とその後の各直腸温およびBG測定値の間の差異が分析された。麻酔期間中の各動物の温度差の曲線下面積 (AUC) を計算した (AUC T0-90 )。パラメトリックまたはノンパラメトリック データは、一元配置反復測定分散分析またはフリードマン検定によって分析された。p < 0.05の値は有意であるとみなされた。
結果:グループ間で AUC T0-90に有意差は存在しなかった(LRS では 41.6 ± 7.7、B100 では 43.4 ± 6.9、B200 では 42.9 ± 7.5 ( p = 0.368))。麻酔導入後 90 分および 24 時間の時点で、群間の BG に有意差は観察されなかった (それぞれp = 0.283 およびp = 0.089)。麻酔後の低血糖[BG ≤ 3.17 mmol L -1 (57 mg dL -1 )]の発生率は、B100 グループ (4/10匹) とB200 グループ (3/10匹) の両方で、LRS グループ (1/10匹) よりも高い傾向が認められた。
結論と臨床的関連性:BCAA を麻酔前に 1 回静脈内注射しても、麻酔中の熱損失は軽減されなかった。LRS グループよりも BCAA グループの方が低血糖の猫が多かった。
感想:この論文の実験では、猫へのBCAA投与による保温効果が認められない結果となっており、一見すると、岐阜大学で行われた猫へのアミノ酸輸液による保温効果を確認した実験結果とは矛盾するように思われます。しかし、実験内容を詳しく検討すると、投与方法や測定項目などが異なっているため、この結果だけで、猫に対するアミノ酸輸液の体温低下抑制効果を否定することはできないと考えられました。
論文の結果だけを鵜呑みにせず、批判的な視線を持つということを常に意識することの必要性について実感できました。
2024年2月22日実施(担当: 棚橋)
Sedative effects and changes in cardiac rhythm with intravenous premedication of medetomidine, butorphanol and ketamine in dogs
2024年2月8日実施(担当: 諫山)
2024年1月11日実施(担当: 目黒)
Effectiveness of orally administered maropitant and ondansetron in preventing preoperative emesis and nausea in healthy dogs premedicated with a combination of hydromorphone, acepromazine, and glycopyrrolate
Journal of the American Veterinary Medical Association 260巻1号
目的: 前投薬としてヒドロモルフォン、アセプロマジン、グリコピロレートを併用した健康な犬において、術前嘔吐および吐き気予防としてのマロピタントおよびオンダンセトロンの効果を比較すること。
動物: 保護団体が所有する犬88頭。
方法: 前投薬投与の2時間前にマロピタント経口投与(n=29)、オンダンセトロン経口投与(n=28)、制吐剤投与なし(n=31、コントロール)の3グループに分類した。ヒドロモルフォン、アセプロマジン、グリコピロレートの前投薬投与後15分間で嘔吐、吐き気、吐き気の重症度(6つの徴候で評価)を評価した。
結果: 嘔吐した犬の割合は、マロピタント群(3/29[10%])で、コントロール群(19/31[62%])、オンダンセトロン群(15/28[54%])と比較して有意に低かった。吐き気を催したと思われる犬の割合は、マロピタント群(3/29[10%])で、コントロール群(27/31[87%])、オンダンセトロン群(14/28[50%])と比較して有意に低かった。また、オンダンセトロン群も、コントロール群より有意に低かった。吐き気の重症度は、流涎、唇を舐める行為、嚥下困難、前かがみ姿勢において、マロピタント群はコントロール群より有意に低かった。また、流涎、唇を舐める行為、嚥下困難において、オンダンセトロン群はコントロール群より有意に低かった。
結論と臨床的意義: 健康な犬において、ヒドロモルフォン前投2時間前のマロピタント経口投与は、嘔吐および吐き気の発生とその重症度を減少させる。オンダンセトロンでは吐き気の発生とその重症度は減少するが、嘔吐の発生率は変化しない。
感想: 岐阜大学動物病院麻酔科では、普段から催吐作用のあるオピオイド受容体作動薬を鎮痛薬として使用することが多く、それらによる嘔吐や吐き気による副作用のリスク軽減のため制吐薬の使用は必須となっています。そのため、制吐薬は私にとってもかなり身近な薬剤であり、オピオイドの催吐作用に対して制吐薬がどの程度作用効果を発揮しているのか、薬剤同士を比較するとどうなのか、比較的容易に誰でも投与可能な経口投与という経路で調べた本研究は、自身の今後にとってもとても勉強になる内容となり、今後別の制吐剤の作用効果についても調べようと思えるいい機会となりました。
2023年12月7日実施(担当: 棚橋)
Stroke volume variation (SVV) and pulse pressure variation (PPV) as indicators of fluid responsiveness in sevoflurane anesthetized mechanically ventilated euvolemic dogs
The Journal of Veterinary Medical Science. 1437-1445, 2017
要旨: 本研究は、一回拍出量(SVV)と脈圧変動(PPV)が、循環血液量の増加を検出する能力を評価することと、輸液反応性を示す最適閾値を決定することを目的としました。結果、SVVとPPVは正常な犬に輸液投与した場合、輸液反応性の有用な予測因子となることが示されました。全身麻酔下で機械換気された犬では、SVV≧11%、PPV≧7%の場合に輸液負荷により心拍出量が15%以上上昇する可能性が高いということが示されました。
感想: PPVは岐阜大学附属動物病院のオペ室のモニターでも測定でき、よく見る数字でしたが、PPVについて理解が浅く、麻酔中にあまり着目していませんでした。今回の発表でPPVとSVVがどのような数値なのかより深く学び、輸液投与の指標となることがわかったので、今後は麻酔中の動物の状態を把握するための一つの数値として参考にしていきたいと思いました。
2023年11月9日実施(担当: 諫山)
Evaluation of cardiovascular effects of intramuscular medetomidine and a medetomidine-vatinoxan combination in Beagle dogs: A randomized blinded crossover laboratory study ビーグルにおけるメデトミジンおよびメデトミジンとバチノキサンの併用による心血管作用の評価(無作為化盲検クロスオーバー試験)
Veterinary Anaesthesia and Analgesia Volume 50, Issue 5, September 2023, Pages 397-407
目的:メデトミジンとバチノキサン(MVX)の併用とメデトミジン(MED)単独を筋肉内投与した場合の心血管系への影響を比較し,MVXもしくはMED投与後の心拍数(HR)を心拍出量(CO)の代用として用いることができるかどうかを検討する。
試験デザイン:ランダム化, 盲検化, クロスオーバー試験
動物: 年齢4.6(2.3-9.4)歳、体重12.9(9-14.7) kgの健康なビーグル8頭
方法: 各犬にメデトミジン1 mg/m2およびバチノキサン20 mg/m2、もしくはメデトミジン1 mg/m2単独を筋肉内投与した。7日間のウォッシュアウト期間を設けた。ベースライン値として投与20分前、10分前、そして投与5分、10分、15分、20分、35分、45分、60分、90分、120分後に心血管系のデータを計測し、動脈および混合静脈の血液ガスサンプルを採取した。処置の種類、期間、順序間の差は共分散分析で評価し、HRとCOの関係は反復測定分散分析で評価した。
結果: MED群のCOはMVX群より47-96%低かった。MED群の全身血圧、肺動脈血圧、右心房圧、酸素摂取率はMVX群より有意に上昇した。HRはMED群で有意に低下し、HRとCOの関係は有意であった。
結論: 全体的にMEDはMVXよりも心血管系に悪影響を及ぼし、群間の心血管系機能の差は臨床的に重要であると考えられる。HRはCOと直線的に相関関係にあり、MVXもしくはMEDで鎮静した犬のHRの低下は心臓のパフォーマンスを反映していたと言える。
感想: メデトミジンの投与によって、血圧は維持されているが、心拍出量などが著しく低下し、心臓や肺血管への負担が大きいことを理解したうえでメデトミジンを臨床現場で使用することが大事だと感じました。メデトミジンの鎮静効果をほとんど拮抗することなく、末梢に対する副作用のみを拮抗するバチノキサンは、今後さらなる研究を重ねて日本国内においても臨床現場で広く使われるようになるといいなと思いました。心疾患の既往のある動物においてもバチノキサンと併用することでメデトミジンによる鎮静を行うことができるようになるかどうかも興味深く感じます。また、本研究ではメデトミジンとバチノキサンの併用のみ評価していましたが、犬の鎮静として広く用いられているメデトミジン・ミダゾラム・ブトルファノールの組み合わせと共にバチノキサンを使用した場合、心機能や鎮静効果にどのような影響を及ぼすのか、ということにも興味が湧きました。
2023年10月20日実施(担当: 土肥)
The effect of remifentanil infusion on sevoflurane minimum alveolar concentration-no movement (MACNM) and bispectral index in dogs犬におけるレミフェンタニル注入のセボフルランの無動作最小肺胞濃度(MACNM)およびバイスペクトル指数への影響
Veterinary Anaesthesia and Analgesia 50.2 (2023): 121-128.
目的: 犬における運動を妨げるセボフルランの最小肺胞濃度(SEVOMACNM)とバイスペクトル指数(BIS)に対するレミフェンタニル注入の影響を測定する。
研究デザイン: 非マスク化、前向き研究。
動物: ビーグルの成犬10頭、体重:9.0 ± 1.1 kg
実験方法: イヌのセボフルラン吸入麻酔下でのベースラインのSEVOMACNM を測定した。レミフェンタニルは、5、10、および20 μg/kg/hrの3つの投与速度で順に投与され、それぞれの間に20分間のウオッシュアウトを設けた。麻酔下での計測項目は、心拍数(HR)、オシロメトリック血圧、呼気終末二酸化炭素分圧、呼気終末セボフルラン濃度(Fe'Sevo)および BISが記録された。レミフェンタニル投与後のSEVOMACNM(SEVOMACNM-REMI)の測定は、各投与の開始から20分後に開始された。ベースライン、SEVOMACNM-REMI測定時点、および各投与停止の20分後に、血漿レミフェンタニル濃度測定のために静脈血を採取した。混合モデル分析を使用して、応答変数に対するレミフェンタニル投与の影響を決定した。BISとFe'Sevo、血漿レミフェンタニル濃度、およびベースラインSEVOMACNM の減少率の関係を評価した(p < 0.05)。
結果: 全体のベースラインSEVOMACNM は2.47 ± 0.11% でした。すべての注入速度でのレミフェンタニルの投与はSEVOMACNMを有意に減少させたが、中用量および高用量では低用量よりもSEVOMACNMの大きな減少が優位に生じた。10と20 μg/kg/hrの注入の間で、SEVOMACNMの変化率に差は認められなかった。血漿レミフェンタニル濃度は、すべての注入速度で有意に異なった。ベースラインSEVOMACNMでのBIS 値は70 ± 1で、全レミフェンタニル投与速度中に記録されたBIS値よりも低かった。BIS値は注入速度間で有意な差は認められなかった。レミフェンタニル注入中はベースラインSEVOMACNM時よりも心拍数が低く、平均動脈圧が高かった。
結論と臨床的関連性: レミフェンタニル投与は全ての注入速度で犬のSEVOMACNMを減少させた。 今回検証されたいずれの投与速度でも、レミフェンタニル投与はBIS値を低下させなかった。
感想: BIS値が犬の覚醒度合いを正確に評価できているのであれば、レミフェンタニル投与時に吸入麻酔薬の濃度を下げすぎると、痛みを感じなくても意識はあるという状況が起こりうるのかもしれないと思いました。
2023年10月12日実施(担当: 目黒)
Effect of anesthetic induction with propofol, alfaxalone or ketamine on intraocular pressure in cats: a randomized masked clinical investigation
Veterinary Anaesthesia and Analgesia 50巻1号 p.63-71 2023年1月
目的:プロポフォール、アルファキサロンケタミンによる、猫のIOPへの影響を比較する
研究デザイン:前向き盲検化ランダム臨床試験
動物:様々な目的で全身麻酔を受ける、眼科的に正常な猫43匹
方法:圧平眼圧測定にてベースラインIOPを測定した後、プロポフォール(n=15)、アルファキサロン(n=14)、ケタミン(n=14)を静脈から緩徐投与することで麻酔導入を行った。その後、ミダゾラム(0.3mg/kg)を静脈内投与し、局所麻酔の投与および塗布なしで気管挿管を行った。IOPは各処置の後にそれぞれ測定した。データはone-way ANOVAおよび反復測定の混合効果モデルで分析され、事後検定を実施した。P値は0.05未満で有意差ありとした。
結果:平均±標準誤差で示したIOPは、ベースラインにおいて各グループで有意差は認めなかった。(プロポフォール18±0.6、アルファキサロン18±0.7、ケタミン17±0.5mmHg)麻酔導入後、ベースラインと比較してIOPは、プロポフォールで有意に上昇したが(20±0.7mmHg)、アルファキサロン(19±0.8mmHg)とケタミン(16±0.7mmHg)では変化しなかった。ミダゾラム投与の結果、導入時の測定値と比較してアルファキサロンで有意な低下を認めたが(16±0.7mmHg)、プロポフォール(19±0.7mmHg)とケタミン(16±0.8mmHg)では変化しなかった。アルファキサロンでは、気管挿管後の測定においてさらなるIOPの低下を認めた。(15±0.9mmHg)
結論と臨床的関連:プロポフォールは、角膜穿孔や緑内障のようにIOP上昇を避けるべき猫に対して、慎重に使用するべきである。
感想: 本論文はプロポフォールが猫の眼圧を上昇させるため、慎重に使用するようにという結論を述べていましたが、私がより気になったのはケタミンが眼圧を下げ得る可能性があるという研究結果が出た点でした。教科書的にはケタミンは眼圧を上げるとされていることが多く、私自身もそのように認識していたため、その認識を覆す結果が出ていたことには非常に驚かされました。
2023年9月21日実施(担当: 棚橋)
Salmon cartilage proteoglycan suppresses mouse experimental colitis through induction of Foxp3+ regulatory T cells
Biochemical and Biophysical Research Communications 402 (2010) 209-215
要旨: 本研究は、サケ鼻軟骨由来プロテオグリカン(PG)の投与が大腸炎の進行を抑制するかどうかを検討することを目的とした。結果、PGの経口投与が、炎症性サイトカインの産生を抑制するFoxp3⁺ Treg発現を促進することにより、大腸炎の発症を抑制することがわかった。これにより、PGが将来的にIBDの予防薬となる可能性も考えられた。
感想: 複数の実験を行い、それぞれの結果を組み合わせて考察しており、実験の考え方を学ぶことができました。プロテオグリカンをサケ鼻軟骨から抽出することで、フードロスを軽減することもできるという一石二鳥の考え方が素晴らしいなと思いました。
2023年9月14日実施(担当: 諫山)
Evaluation of the anesthetic and cardiorespiratory effects of intramuscular alfaxalone administration and isoflurane in budgerigars (Melopsittacus undulatus) and comparison with manual restrain セキセイインコにおける、アルファキサロンの筋肉内投与およびイソフルランによる麻酔と心肺への影響の評価と、無処置で用手保定した時との比較.
Journal of the American Veterinary Medical Association 2019 Jun 15;254(12):1427-1435
要旨: 本研究は、セキセイインコにおけるアルファキサロン筋肉内投与およびイソフルラン吸入による麻酔効果、心肺効果を評価し、これらの薬剤を使用した時と用手保定の時を比較することを目的として行われた。アルファキサロンの投与量比較のため、鳥にアルファキサロンを5 mg/kgまたは10 mg/kg筋肉内投与した(A5群およびA10群)。また、処置の比較のため、アルファキサロン10 mg/kg筋肉内投与、またはイソフルランのフェイスマスク吸入、もしくは無処置で用手保定する3群(A群、I群、M群)に分けた実験も行った。鎮静の発現時間、深度、持続時間、心拍数、呼吸数、覚醒時間を評価した。処置の比較実験では身体検査と血液ガス分析も行った。結果として、A5群の鳥はすべて鎮静状態になったが、仰臥位にはならなかった。A10群では6羽中5羽が立ち直り反射を失ったが、侵害刺激反射を失った鳥はいなかった。初期効果発現までの時間はA5群よりA10群で有意に短く、覚醒までの平均時間はA5群よりA10群で有意に長かった。血漿中乳酸濃度はA群およびI群よりもM群で有意に高かった。アルファキサロンを10mg/kgで筋肉内投与することは、短時間の低侵襲な処置において、イソフルラン吸入や用手保定に代わる有効な選択肢となりうることが示された。
感想: イソフルラン吸入麻酔の代替としてアルファキサロンの筋肉内投与が有効な手段であるということは、セキセイインコの臨床現場において非常に有意義であると感じました。セキセイインコにおけるアルファキサロンの適切な投与量についてのさらなる研究が必要だと思いました。
2023年8月3日実施(担当: 土肥)
Evaluation of the Two-Point Ultrasound-Guided Transversus Abdominis Plane Block for Laparoscopic Canine Ovariectomy犬の腹腔鏡下卵巣切除術における2点超音波ガイド下腹横筋面ブロックの評価
Animals 12.24 (2022): 3556.
要旨:腹横筋面(TAP)ブロックは、腹壁と腹膜の脱感作を引き起こす局所領域麻酔技術である。犬においては、これまでの実験によって2点の領域で麻酔液を注入することが最良であるという結果が示されているが、臨床データは存在しなかった。本研究では、腹腔鏡下卵巣摘出術を受けた犬における2点注入TAPブロックの術中、術後の鎮痛効果の評価を行った。各26頭ずつの犬が吸入麻酔麻酔のみの対象群と吸入麻酔とTAPブロックの併用群(TAP群)の2群に分けられ、評価された。
TAPブロックは、超音波ガイド下で片側腹部ごとに肋骨下と頭側から腸骨に向かって実施された。 手術中の終末呼気イソフルラン濃度(EtISO)と術後24時間の痛みが評価された。対照群は、卵巣切除中に有意に高いEtISOを必要とし、TAP群よりも高い術後疼痛スコアを示した。TAP群では、術中または術後のレスキュー鎮痛の必要数が少なかった。TAP ブロックは、腹腔鏡検査後の術後疼痛管理を改善するために実施可能であり、全身薬の使用量を減らすことで副作用の可能性を減らすことができる。
感想:TAPブロックの内臓痛に対する効果は議論が分かれているとの記載がありました。喋れない動物に対して、局所領域麻酔の鎮痛効果範囲の評価の難しさを感じました。
2023年7月21日実施(担当: 目黒)
Epidural anesthesia in dogs undergoing hindlimb orthopedic surgery:effects of two injection sites
The journal of Veterinary Medical Science 84巻3号 p.457-464 2022年1月
要旨: 前向き臨床試験で、後肢の整形外科手術における腰仙骨間とL5-L6間の硬膜外麻酔の効果について比較した。98頭の犬をランダムにL7-S1投与(LSグループ)とL5-L6投与(LLグループ)に分け、同様の薬用量で局所麻酔を行った。(1mg/kgの0.5%ブピバカインと0.5mg/kgの1%モルヒネ)術中のレスキュー鎮痛(iRA)はフェンタニル1㎍/kgとし、平均動脈血圧が刺激前より30%を超えた時点で投与した。硬膜外麻酔の処置失敗、iRA、低血圧、運動抑制の解除、術後の副作用については記録された。硬膜外麻酔の処置失敗は、LSグループで7/47(15%)、LLグループで8/51(16%)であった。(P=1.00)iRAは、LSグループで21/40(52%)、LLグループで13/43(30%)の犬にそれぞれ投与された。(P=0.047)低血圧の発生はそれぞれ、LSグループで10/40(25%)、LLグループで16/43(37%)であった。(P=0.25)固有受容感覚の欠損残存はそれぞれ、硬膜外麻酔の8時間後においてLSグループで3/26(25%)、LLグループで13/26(50%)であった。(P=0.01)24時間以内に固有受容感覚が回復しなかった犬1頭(LLグループ)は36時間以内には回復を認めた。術後の尿閉、搔痒症、神経損傷は認められなかった。L5-L6での硬膜外麻酔はiRAを有意に減少させたが、固有受容感覚の回復が遅延した。iRAの発生率を維持したまま固有受容感覚の回復遅延を軽減できるブピバカインの用量を決定するためには、さらなる研究が必要である。
感想: 小動物臨床の現場において、硬膜外麻酔は疼痛管理で頻繫に用いられている手法ですが、犬の場合は腰仙椎間に投与するのが基本とされています。本論文はその点に着目し、本当にその場所に投与することが硬膜外麻酔を行う上での最適解なのかという疑問を投げかけ、研究で確認したという内容でした。この論文を読んで、普段臨床の現場で実際に行われている手法が本当に最大の効果を発揮するものなのか、そういった点について常に疑問を持ち続けることは、獣医療における最新の情報を知るうえで重要な視点になると感じました。
2023年6月15日実施(担当: 棚橋)
Retrospective evaluation of acute hyperkalemia of unknown origin during general anesthesia in dogs
Veterinary Anaesthesia and Analgesia, 2023, 50, 129-135
要旨: 本研究は、麻酔下のイヌにおいて、原因不明の高カリウム血症を呈した症例を報告し、その特徴を明らかにすることを目的とした。結果、α₂アゴニスト、μオピオイドアゴニストおよび吸入麻酔を1時間以上投与した犬では、急性高カリウム血症が起こりうることがわかった。したがって、低体温が認められないが、抗コリン薬に反応しない急性徐脈が見られた場合、特に前投薬でデクスメデトミジンを使用した場合には、直ちにカリウム濃度を確認することが求められる。
感想: 先行研究では、オピオイドの投与と血中カリウム濃度の上昇との関連は報告されていませんが、本研究においては全症例に投与されており、どのような機序で急性高カリウム血症が起きるのか、興味深かったです。高カリウム血症は生死を脅かす疾患であるため、もっとこのような研究が行われることによって早急な原因追及が進んでいってほしいと思いました。
2023年6月8日実施(担当: 諫山)
Assessment of sedation after intranasal administration of midazolam and midazolam-butorphanol in cockatiels (Nymphicus hollandicus) オカメインコにおける、ミダゾラム単独、及びミダゾラムとブトルファノールを組み合わせて鼻腔内投与した際の鎮静作用の評価
American Journal of Veterinary Research 2018 Dec;79(12):1246-1252
要旨: 本研究は、オカメインコにミダゾラムおよびミダゾラム-ブトルファノールを鼻腔内投与した際の鎮静効果を比較することを目的に行われた。鎮静効果は、眼の状態、姿勢、視覚刺激、聴覚刺激及び触覚刺激に対する反応と、保定中における眼の状態と拘束に対する闘争反応により評価した。また、保定中のストレス反応を評価するために心拍数、呼吸数、肛門温を測定した。結果として、ミダゾラムおよびミダゾラム-ブトルファノールの鼻腔内投与は、オカメインコに急速な鎮静作用をもたらした。ミダゾラム-ブトルファノールは、ミダゾラム単独投与と比較して、保定中の鳥と保定されていない鳥の両方でより深い鎮静をもたらした。ミダゾラムとミダゾラム-ブトルファノールはともにオカメインコに安全で効果的な鎮静をもたらした。
感想: インコに用いられる代表的な薬物の投与経路として挙げられる筋肉内投与より、侵襲性の低い鼻腔内投与で十分な鎮静効果が得られることが興味深かったです。
2023年1月6日実施(担当: 森)
Inhibition of insulin secretion from rat pancreatic islets by dexmedetomidine and medetomidine, two sedatives frequently used in clinical settings
Endocrine Journal 2013, 60 (3), 337-346
要旨: 本研究は、メデトミジンとデクスメデトミジンが膵臓におけるインスリン分泌に与える影響を明らかにすることを目的として行った。結果、両薬剤は濃度依存的にインスリン分泌を抑制することがわかった。また、その効果はPTX感受性のG蛋白質を介してKvチャネルを活性化し、Caチャネルを抑制することで発現することがわかった。
感想: 両薬剤は、その鎮静作用と血管収縮作用が主に知られているが、膵臓にも作用点が存在し、血糖コントロールにも影響を与えていることがin vitroの実験で証明されていて興味深いと思いました。その作用機序にはまだ未明なことが多く、それがこれから明らかになり様々なことに応用されていけばいいなと考えます。
2022年2月4日実施
Pharmacokinetics of dexmedetomidine, MK-467, and their combination following intravenous administration in male cats 猫への静脈内投与によるデクスメデトミジン、MK467とその併用における薬物動態
Journal of Veterinary Pharmacology and Therapeutics, 2016 Oct;39(5):460-8.
要旨: 無作為に抽出された、体重が5.1~0.7kgの7匹の6歳の去勢雄猫に対し、デクスメデトミジン[12.5(D12.5)と25(D25)µg/kg]、MK-467[300µg/kg(M300)]、デクスメデトミジン(25µg/kg)とMK-467[75.150.300.600ー600µg/kgのグループ(D25M600)の血漿中濃度のみを分析した]を静脈内に投与し、投与8時間後まで血液を採取した。血漿中薬物濃度は液体クロマトグラフィー質量分析法により分析した。2-コンパートメントモデルがデータに最適とされた。中央コンパートメント(mL/kg)、定常状態の分布容積(mL/kg)、排泄(mL/min/kg)、半減期(min)の中央値(範囲)はD12.5群では342 (131-660), 829 (496-1243), 14.6 (9.6-22.7) と48 (40-69) ; D25群では296 (179-982), 1111 (908-2175), 18.2 (12.4-22.9) and 52 (40-76) ; D25M600群のデクスメデトミジンは653 (392-927), 1595 (1094-1887), 22.7 (18.5-36.4) ,48 (35-60) ; M300群では117 (112-163), 491 (379-604), 3.0 (2.0-4.5) and 122 (99-139) ; D25M600群のMK-467については 147 (112-173), 462 (403-714), 2.8 (2.1-4.8) and 118 (97-172)であった。MK-467はデクスメデトミジンの体内動態に中等度の、しかし統計的に有意な影響を与えた。一方、デクスメデトミジンはMK467の体内動態に最小限の影響しか与えなかった。
感想: 薬物動態解析についての理解が深まりました。また、臨床試験段階にあるMK-467の猫での効果、およびほかの動物での効果について学ぶことができた良い機会となりました。
2021年12月10日
Pharmacokinetics and efficacy of trazodone following rectal administration of a single dose to healthy dogs 健康な犬にtrazodoneを単回直腸投与したときの薬物動態と有効性の検討
American Journal of Veterinary Research, Vol 81, No.9, September 2020
目的: 健康な犬にtrazodoneを単回直腸投与したときの薬物動態と有効性を検討する。
動物: 健康な成犬6頭
方法: 各犬にトラゾドン(約8mg/kg)を直腸から単回投与した。トラゾドンの錠剤を粉砕して粉末にし、5mLの水道水と混合し、赤いゴム製のカテーテルで直腸に注入した。鎮静効果の評価を行い,投与前後の所定の時間に血液を採取して血漿中のトラゾドン濃度を測定した。薬物動態パラメータはノンコンパートメント解析により推定した。
結果: 血漿中のトラゾドン濃度は、1頭の犬が中等度の鎮静状態になっても検出限界以下のままであった。トラゾドンの最大血漿濃度およびバイオアベイラビリティを補正した分布容積とクリアランスの中央値(四分位数[25~75%]範囲[IQR])は、それぞれ1.00μg/mL(0.66~1.40μg/mL)、10.3L/kg(7.37~14.4L/kg)、639mL/kg/h(594~719mL/kg/h)であった。血漿中トラゾドン濃度が最大となるまでの時間(中央値)は15分(範囲:15~30分),排泄半減期は12時間(IQR:7.99~12.7時間)であった。すべての犬が軽度または中等度の鎮静状態になり,トラゾドン投与後中央値30分(IQR,30~60分)で鎮静の程度が最大になった。副作用は認められなかった。
結論と考察: トラゾドンの直腸投与は、他の経路で鎮静剤や抗不安薬を投与することが禁忌である犬の鎮静および不安の治療に有効な選択肢であると考えられる。直腸投与後のトラゾドンの薬物動態と有効性をよりよく解明し、最適な投与量を決定するためには、さらなる研究が必要である。
感想: 論文で述べられていることを鵜呑みにするのではなく、疑問を持ちながら読むことが大切だと改めて感じることができた。