国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

生体分子機能学研究室

研究内容

はじめに

1. 海老原グループ

私達は,血圧調節機構レニン-アンジオテンシン系による生体調節機構を生化学的視点から研究しています。

レニン-アンジオテンシン系とは,酵素レニンを起点として,強力な血管収縮活性を有するホルモン・アンジオテンシンを産生する血圧調節機構です。この生体調節機構は,正常血圧を維持することで体内環境を一定に保ちます。しかし,この機構が過剰に活性化されると,過度の血管収縮による血管傷害を招き,高血圧症や糖尿病,動脈硬化などの生活習慣病を加速します。一方で,レニン-アンジオテンシン系を構成するタンパク質が,高血圧症や糖尿病,難治性がんなどの疾病の予見指標(バイオマーカー)として利用できる可能性も分かってきました(下図、説明はこちら)。

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様々な生活習慣病との関連性が報告される一方,その関連性は分子レベルで十分理解出来ていません。そこで私達は,分子レベルで生命現象を捉える「生化学」の視点から,原子~細胞~個体スケールで,この生体調節機構の解明を目指しています。

研究のテーマ(大テーマ)は以下の3点です。

  1. 血圧調節酵素レニンの反応機構の完全解明 【酵素反応の本質を知りたい】
  2. (プロ)レニン受容体の機能解明 【受容体の真の機能を知りたい】
  3. レニン-アンジオテンシン系が関連するバイオマーカーの新規検査法の開発 【早期診断に貢献したい】

私達は,国内外を問わず,分野の垣根を越えて共同チームを形成し,学問と社会の発展に貢献するための研究を進めています。

2. 島田グループ

私達は,呼吸鎖末端酵素であるシトクロム酸化酵素の反応機構を原子レベルで理解することを目指して研究を行なっています。

生命維持活動エネルギーであるATPの大部分は、細胞内小器官のミトコンドリアで行われる酸化的リン酸化によって合成されています。酸化的リン酸化は、ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖タンパク質群とATP合成酵素によって行われています(下図)。まず、呼吸鎖タンパク質群が酸化還元エネルギーを利用してプロトン(H+)をミトコンドリアマトリクスから内膜外へと能動輸送(ポンプ)することで、ミトコンドリア内膜を挟んでプロトン濃度勾配と膜電位(これらを合わせてプロトン駆動力と言います)を形成します。プロトンは脂質二重膜を通られないので、内膜外へポンプされたプロトンは濃度勾配を解消するためにATP合成酵素を介してミトコンドリアマトリクスへと戻ります。ATP合成酵素は、このプロトンの流れを利用して高効率にATPを合成しています。

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私達の注目しているシトクロム酸化酵素は、プロトン駆動力を生み出す呼吸鎖の末端に位置しているタンパク質です。シトクロム酸化酵素は、NADH-ユビキノン還元酵素とシトクロムbc1複合体からシトクロムcを介して伝達された電子を利用して、呼吸で取り込まれた酸素を水まで完全還元します。この酸素を水に還元する反応によって得られるエネルギーを利用して、プロトンをポンプしています。シトクロム酸化酵素は生体内で唯一酸素を消費する酵素であり、我々好気性生物が酸素を取り込むのは、この酵素へ酸素を供給するためです。したがって、シトクロム酸化酵素は生体エネルギー生産の中枢を担う酵素であり、その反応機構解明は生体エネルギー論分野における最重要課題であり続けています。

近年では、シトクロム酸化酵素の反応を穏やかに抑制することで過剰なエネルギー生産を抑制し、肥満などメタボリックシンドロームの抑制につなげる創薬研究への展開も期待されています。

研究のアプローチ

研究室は2名の教員で構成されています。それぞれ独自の視点から連携して研究を進めています。

教員専門視点
海老原 章郎 酵素科学 原子レベルで生命現象を理解する
島田 敦広 酵素科学 高い空間・時間分解能で生命現象を可視化する

研究テーマ

海老原グループ

酵素レニンの反応機構の完全解明

構造生物学および酵素化学によるレニンの反応機構の解明

(プロ)レニン受容体の機能解明

新規な相互作用タンパク質の同定と機能解析
可溶型受容体の生合成機構の解明
可溶型受容体の構造生物学

レニン-アンジオテンシン系が関連する疾病の新規検査法の開発

高血圧症やがんに対する新規検査法の開発

島田グループ

シトクロム酸化酵素の超高分解能構造解析

高品質シトクロム酸化酵素の精製・結晶化方法の検討
第3世代放射光施設(SPring-8)を利用したX線結晶構造解析
異なる組織(心臓・肝臓)からのシトクロム酸化酵素精製方法の確立

シトクロム酸化酵素とその活性制御因子との相互作用解析

CHCHD2タンパク質とシトクロム酸化酵素の相互作用解析(クライオ電子顕微鏡も利用)
シトクロム酸化酵素の活性を制御する低分子化合物との複合体構造解析(クライオ電子顕微鏡も利用)

シトクロム酸化酵素の短寿命反応中間体構造の解析

高輝度かつ極短パルスX線(X線自由電子レーザー)を利用したシトクロム酸化酵素の反応中間体構造の解明
X線発光分光(XES)とX線回折(XRD)の同時測定による、タンパク質の空間座標と金属イオンの電子状態の同時測定

研究室を志望される皆さんへ

血圧調節機構レニン・アンジオテンシン系に関わる分子は、血圧調節のみならず、胚発生やがんにも関わると分かり、劇的な進展を遂げています。また、シトクロム酸化酵素についても、これまでの基礎研究データを元にした創薬などへの応用研究への展開が期待されています。「応用へとつなげる基礎研究」をモットーに、生化学的手法・分子生物学的手法・構造生物学的手法を駆使して、新しい分子機能の解明とそれに根ざした新規検査法の開発や創薬への発展を目指して、日々研究を行っています。興味ある方は是非一緒に研究しましょう!

(プロ)レニン受容体フォーラム

当研究室は、第1回から第3回の(プロ)レニン受容体フォーラムの事務局を担当しました。このフォーラムは、レニン・アンジオテンシン系およびプロレニン、(プロ)レニン受容体研究に関心のある国内の若手研究者育成のための研究会であり、海外からの研究者も招聘しました。

  • 第1回プロレニン受容体フォーラム(平成21年3月7日 経団連会館・東京)
    1st (Pro)renin receptor forum in Japan `09 (March 7th Keidanren-kaikan, Tokyo)
    [ プログラム日本語] [Program English]
  • 第2回プロレニン受容体フォーラム(平成21年8月1日 東京コンファレンスセンター・品川)
    2nd (Pro)renin Receptor Forum in Japan `09 (Aug 1st Tokyo Conference Center Sinagawa)
    [Program English]
  • 第3回プロレニン受容体フォーラム(平成22年7月31日 東京コンファレンスセンター・品川)
    3rd (Pro)renin receptor forum in Japan `10 (July 31 Tokyo Conference Center Sinagawa)
    [Program English]