【報告】平成31年度岐阜大学応用生物科学部 『武者修行2』
報道 2019年11月25日
応用生物科学部では、研究の質の向上や学際性・国際性の発展を目的とした若手教員(准教授及び助教)を国内外の研究拠点に派遣する、学部独自の派遣事業(応用生物科学部武者修行)を実施しています。
免疫系発達に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の意義
島田 昌也 准教授(応用生命科学課程)
期間:2019年4月5日~2019年10月30日(209日間)
派遣先:Faculty of Agricultural, Life & Environmental Sciences, University of Alberta, Edmonton, Canada
<研究目的の達成度>
派遣先であるCatherine Field教授(Department of Agricultural, Food and Nutritional Science所属)のもとで以下の共同研究を行った。
ノースキャンパスの入り口 | 研究室のある建物の外観 (Li Ka Shing Center For Health Research Innovation) |
魚油に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量を増加させることに加え,n-3系多価不飽和脂肪酸とn-6系多価不飽和脂肪酸の摂取比率が免疫系の調節に重要であるということも支持されている。このような背景から,代表的なn-3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸とn-6系多価不飽和脂肪酸のアラキドン酸を2:1の比率で混合した食餌を,代表的なアレルギーモデル動物の一つであるBrown Norway系の母ラットに妊娠期間から授乳期間にわたって摂取させ,その産まれた仔ラットの主要な免疫臓器である脾臓の免疫系をフローサイトメトリーやELISAなどで評価した。なお,これらの実験は博士課程の学生Dhruvesh Patel氏と共に行った。その結果,これら脂肪酸を含む食餌を,母ラットが妊娠期間から授乳期間に摂取すると,その仔の脾臓の免疫系がアレルギー症状を軽減するTh1細胞優位なTh1/Th2バランスを有するという成果を得た。さらに,脾臓だけでなく小腸も免疫を司る重要な臓器であるため,小腸の免疫系とも密接に関係し,栄養素の消化酵素や輸送体を発現する小腸絨毛の発達度合いを解析するための評価系を新たに立ち上げた。なお,今後の共同研究の継続性・発展性も考慮し,派遣先仕様にプロトコールを英語で作成した。その結果,これら脂肪酸を含む食餌を,母ラットが妊娠期間から授乳期間に摂取すると,その仔の小腸分化マーカーが増大し,小腸絨毛が伸長するという成果を得た。この新たに立ち上げた評価系を導入した研究成果を,以下の学内成果報告会Alberta Diabetes Institute (ADI) 2019 Research Dayでポスター発表も行った(2019年9月27日開催)。
Effects of dietary supplementation with arachidonic acid and docosahexaenoic acid ㏌ the maternal diet on development of the small intestine: Shimada M, Patel D, Goruk S, Newell M, Field CJ.
ADI 2019 Research Day 告知ポスター |
ADI 2019 Research Day ポスター発表後の記念撮影 |
以上のことから,当初の研究の目的である免疫系発達に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の意義を明らかにすることをおおむね達成できたと考える。
<将来の可能性>
上記の研究は現在も継続中であるが,将来的にこれらの研究成果は,Field教授が責任著者となり共著論文として発表される予定である。さらに,Field教授だけではなく,共同研究などを通じて同学科のRhonda Bell教授,Caroline Richard助教とも親交を深めることができた。また,岐阜大学で行った研究データを用いて,Field教授らと議論をしながら論文を完成させた。その成果は派遣期間中に共著として以下の学術誌に掲載することができた。
High-fructose diet-induced hypertriglyceridemia is associated with enhanced hepatic expression of ACAT2 in rats: Ichigo Y, Takeshita A, Hibino M, Nakagawa T, Hayakawa T, Patel D, Field CJ, Shimada M. Physiol Res. 2019, in press.
これらのことを総括すると,今後のさらなる共同研究の発展や岐阜大学の学生派遣先の基盤を構築できたと考える。