国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

動物病院研究室

Journal club

当研究室では、VETERINARY ANAESTHESIA and ANALGESIAに掲載されている研究論文を中心に、各担当者が翻訳・発表を行い、定期的に意見交換を行なっております。Journal clubは、論文の読み方・書き方を学ぶだけでなく、日々の臨床への知識還元、研究への還元を目的に行なっております。

2024年1月11日実施(担当: 目黒)

Effectiveness of orally administered maropitant and ondansetron in preventing preoperative emesis and nausea in healthy dogs premedicated with a combination of hydromorphone, acepromazine, and glycopyrrolate

Journal of the American Veterinary Medical Association 260巻1号

目的: 前投薬としてヒドロモルフォン、アセプロマジン、グリコピロレートを併用した健康な犬において、術前嘔吐および吐き気予防としてのマロピタントおよびオンダンセトロンの効果を比較すること。

動物: 保護団体が所有する犬88頭。

方法: 前投薬投与の2時間前にマロピタント経口投与(n=29)、オンダンセトロン経口投与(n=28)、制吐剤投与なし(n=31、コントロール)の3グループに分類した。ヒドロモルフォン、アセプロマジン、グリコピロレートの前投薬投与後15分間で嘔吐、吐き気、吐き気の重症度(6つの徴候で評価)を評価した。

結果: 嘔吐した犬の割合は、マロピタント群(3/29[10%])で、コントロール群(19/31[62%])、オンダンセトロン群(15/28[54%])と比較して有意に低かった。吐き気を催したと思われる犬の割合は、マロピタント群(3/29[10%])で、コントロール群(27/31[87%])、オンダンセトロン群(14/28[50%])と比較して有意に低かった。また、オンダンセトロン群も、コントロール群より有意に低かった。吐き気の重症度は、流涎、唇を舐める行為、嚥下困難、前かがみ姿勢において、マロピタント群はコントロール群より有意に低かった。また、流涎、唇を舐める行為、嚥下困難において、オンダンセトロン群はコントロール群より有意に低かった。

結論と臨床的意義: 健康な犬において、ヒドロモルフォン前投2時間前のマロピタント経口投与は、嘔吐および吐き気の発生とその重症度を減少させる。オンダンセトロンでは吐き気の発生とその重症度は減少するが、嘔吐の発生率は変化しない。

感想: 岐阜大学動物病院麻酔科では、普段から催吐作用のあるオピオイド受容体作動薬を鎮痛薬として使用することが多く、それらによる嘔吐や吐き気による副作用のリスク軽減のため制吐薬の使用は必須となっています。そのため、制吐薬は私にとってもかなり身近な薬剤であり、オピオイドの催吐作用に対して制吐薬がどの程度作用効果を発揮しているのか、薬剤同士を比較するとどうなのか、比較的容易に誰でも投与可能な経口投与という経路で調べた本研究は、自身の今後にとってもとても勉強になる内容となり、今後別の制吐剤の作用効果についても調べようと思えるいい機会となりました。

2023年12月7日実施(担当: 棚橋)

Stroke volume variation (SVV) and pulse pressure variation (PPV) as indicators of fluid responsiveness in sevoflurane anesthetized mechanically ventilated euvolemic dogs

The Journal of Veterinary Medical Science. 1437-1445, 2017

要旨: 本研究は、一回拍出量(SVV)と脈圧変動(PPV)が、循環血液量の増加を検出する能力を評価することと、輸液反応性を示す最適閾値を決定することを目的としました。結果、SVVPPVは正常な犬に輸液投与した場合、輸液反応性の有用な予測因子となることが示されました。全身麻酔下で機械換気された犬では、SVV11%、PPV7%の場合に輸液負荷により心拍出量が15%以上上昇する可能性が高いということが示されました。

感想: PPVは岐阜大学附属動物病院のオペ室のモニターでも測定でき、よく見る数字でしたが、PPVについて理解が浅く、麻酔中にあまり着目していませんでした。今回の発表でPPVSVVがどのような数値なのかより深く学び、輸液投与の指標となることがわかったので、今後は麻酔中の動物の状態を把握するための一つの数値として参考にしていきたいと思いました。

2023年11月9日実施(担当: 諫山)

Evaluation of cardiovascular effects of intramuscular medetomidine and a medetomidine-vatinoxan combination in Beagle dogs: A randomized blinded crossover laboratory study ビーグルにおけるメデトミジンおよびメデトミジンとバチノキサンの併用による心血管作用の評価(無作為化盲検クロスオーバー試験)

Veterinary Anaesthesia and Analgesia Volume 50, Issue 5, September 2023, Pages 397-407

目的:メデトミジンとバチノキサン(MVX)の併用とメデトミジン(MED)単独を筋肉内投与した場合の心血管系への影響を比較し,MVXもしくはMED投与後の心拍数(HR)を心拍出量(CO)の代用として用いることができるかどうかを検討する。

試験デザイン:ランダム化, 盲検化, クロスオーバー試験

動物: 年齢4.6(2.3-9.4)歳、体重12.9(9-14.7) kgの健康なビーグル8頭

方法: 各犬にメデトミジン1 mg/m2およびバチノキサン20 mg/m2、もしくはメデトミジン1 mg/m2単独を筋肉内投与した。7日間のウォッシュアウト期間を設けた。ベースライン値として投与20分前、10分前、そして投与5分、10分、15分、20分、35分、45分、60分、90分、120分後に心血管系のデータを計測し、動脈および混合静脈の血液ガスサンプルを採取した。処置の種類、期間、順序間の差は共分散分析で評価し、HRとCOの関係は反復測定分散分析で評価した。

結果: MED群のCOはMVX群より47-96%低かった。MED群の全身血圧、肺動脈血圧、右心房圧、酸素摂取率はMVX群より有意に上昇した。HRはMED群で有意に低下し、HRとCOの関係は有意であった。

結論: 全体的にMEDはMVXよりも心血管系に悪影響を及ぼし、群間の心血管系機能の差は臨床的に重要であると考えられる。HRはCOと直線的に相関関係にあり、MVXもしくはMEDで鎮静した犬のHRの低下は心臓のパフォーマンスを反映していたと言える。

感想: メデトミジンの投与によって、血圧は維持されているが、心拍出量などが著しく低下し、心臓や肺血管への負担が大きいことを理解したうえでメデトミジンを臨床現場で使用することが大事だと感じました。メデトミジンの鎮静効果をほとんど拮抗することなく、末梢に対する副作用のみを拮抗するバチノキサンは、今後さらなる研究を重ねて日本国内においても臨床現場で広く使われるようになるといいなと思いました。心疾患の既往のある動物においてもバチノキサンと併用することでメデトミジンによる鎮静を行うことができるようになるかどうかも興味深く感じます。また、本研究ではメデトミジンとバチノキサンの併用のみ評価していましたが、犬の鎮静として広く用いられているメデトミジン・ミダゾラム・ブトルファノールの組み合わせと共にバチノキサンを使用した場合、心機能や鎮静効果にどのような影響を及ぼすのか、ということにも興味が湧きました。

2023年10月20日実施(担当: 土肥)

The effect of remifentanil infusion on sevoflurane minimum alveolar concentration-no movement (MACNM) and bispectral index in dogs犬におけるレミフェンタニル注入のセボフルランの無動作最小肺胞濃度(MACNM)およびバイスペクトル指数への影響

Veterinary Anaesthesia and Analgesia 50.2 (2023): 121-128.

目的: 犬における運動を妨げるセボフルランの最小肺胞濃度(SEVOMACNM)とバイスペクトル指数(BIS)に対するレミフェンタニル注入の影響を測定する。

研究デザイン: 非マスク化、前向き研究。

動物: ビーグルの成犬10頭、体重:9.0 ± 1.1 kg

実験方法: イヌのセボフルラン吸入麻酔下でのベースラインのSEVOMACNM を測定した。レミフェンタニルは、5、10、および20 μg/kg/hrの3つの投与速度で順に投与され、それぞれの間に20分間のウオッシュアウトを設けた。麻酔下での計測項目は、心拍数(HR)、オシロメトリック血圧、呼気終末二酸化炭素分圧、呼気終末セボフルラン濃度(Fe'Sevo)および BISが記録された。レミフェンタニル投与後のSEVOMACNM(SEVOMACNM-REMI)の測定は、各投与の開始から20分後に開始された。ベースライン、SEVOMACNM-REMI測定時点、および各投与停止の20分後に、血漿レミフェンタニル濃度測定のために静脈血を採取した。混合モデル分析を使用して、応答変数に対するレミフェンタニル投与の影響を決定した。BISとFe'Sevo、血漿レミフェンタニル濃度、およびベースラインSEVOMACNM の減少率の関係を評価した(p < 0.05)。

結果: 全体のベースラインSEVOMACNM は2.47 ± 0.11% でした。すべての注入速度でのレミフェンタニルの投与はSEVOMACNMを有意に減少させたが、中用量および高用量では低用量よりもSEVOMACNMの大きな減少が優位に生じた。10と20 μg/kg/hrの注入の間で、SEVOMACNMの変化率に差は認められなかった。血漿レミフェンタニル濃度は、すべての注入速度で有意に異なった。ベースラインSEVOMACNMでのBIS 値は70 ± 1で、全レミフェンタニル投与速度中に記録されたBIS値よりも低かった。BIS値は注入速度間で有意な差は認められなかった。レミフェンタニル注入中はベースラインSEVOMACNM時よりも心拍数が低く、平均動脈圧が高かった。

結論と臨床的関連性: レミフェンタニル投与は全ての注入速度で犬のSEVOMACNMを減少させた。 今回検証されたいずれの投与速度でも、レミフェンタニル投与はBIS値を低下させなかった。

感想: BIS値が犬の覚醒度合いを正確に評価できているのであれば、レミフェンタニル投与時に吸入麻酔薬の濃度を下げすぎると、痛みを感じなくても意識はあるという状況が起こりうるのかもしれないと思いました。

2023年10月12日実施(担当: 目黒)

Effect of anesthetic induction with propofol, alfaxalone or ketamine on intraocular pressure in cats: a randomized masked clinical investigation

Veterinary Anaesthesia and Analgesia 50巻1号 p.63-71 2023年1月

目的:プロポフォール、アルファキサロンケタミンによる、猫のIOPへの影響を比較する

研究デザイン:前向き盲検化ランダム臨床試験

動物:様々な目的で全身麻酔を受ける、眼科的に正常な猫43匹

方法:圧平眼圧測定にてベースラインIOPを測定した後、プロポフォール(n=15)、アルファキサロン(n=14)、ケタミン(n=14)を静脈から緩徐投与することで麻酔導入を行った。その後、ミダゾラム(0.3mg/kg)を静脈内投与し、局所麻酔の投与および塗布なしで気管挿管を行った。IOPは各処置の後にそれぞれ測定した。データはone-way ANOVAおよび反復測定の混合効果モデルで分析され、事後検定を実施した。P値は0.05未満で有意差ありとした。

結果:平均±標準誤差で示したIOPは、ベースラインにおいて各グループで有意差は認めなかった。(プロポフォール18±0.6、アルファキサロン18±0.7、ケタミン17±0.5mmHg)麻酔導入後、ベースラインと比較してIOPは、プロポフォールで有意に上昇したが(20±0.7mmHg)、アルファキサロン(19±0.8mmHg)とケタミン(16±0.7mmHg)では変化しなかった。ミダゾラム投与の結果、導入時の測定値と比較してアルファキサロンで有意な低下を認めたが(16±0.7mmHg)、プロポフォール(19±0.7mmHg)とケタミン(16±0.8mmHg)では変化しなかった。アルファキサロンでは、気管挿管後の測定においてさらなるIOPの低下を認めた。(15±0.9mmHg)

結論と臨床的関連:プロポフォールは、角膜穿孔や緑内障のようにIOP上昇を避けるべき猫に対して、慎重に使用するべきである。

感想: 本論文はプロポフォールが猫の眼圧を上昇させるため、慎重に使用するようにという結論を述べていましたが、私がより気になったのはケタミンが眼圧を下げ得る可能性があるという研究結果が出た点でした。教科書的にはケタミンは眼圧を上げるとされていることが多く、私自身もそのように認識していたため、その認識を覆す結果が出ていたことには非常に驚かされました。

2023年9月21日実施(担当: 棚橋)

Salmon cartilage proteoglycan suppresses mouse experimental colitis through induction of Foxp3+ regulatory T cells

Biochemical and Biophysical Research Communications 402 (2010) 209-215

要旨: 本研究は、サケ鼻軟骨由来プロテオグリカン(PG)の投与が大腸炎の進行を抑制するかどうかを検討することを目的とした。結果、PGの経口投与が、炎症性サイトカインの産生を抑制するFoxp3⁺ Treg発現を促進することにより、大腸炎の発症を抑制することがわかった。これにより、PGが将来的にIBDの予防薬となる可能性も考えられた。

感想: 複数の実験を行い、それぞれの結果を組み合わせて考察しており、実験の考え方を学ぶことができました。プロテオグリカンをサケ鼻軟骨から抽出することで、フードロスを軽減することもできるという一石二鳥の考え方が素晴らしいなと思いました。

2023年9月14日実施(担当: 諫山)

Evaluation of the anesthetic and cardiorespiratory effects of intramuscular alfaxalone administration and isoflurane in budgerigars (Melopsittacus undulatus) and comparison with manual restrain セキセイインコにおける、アルファキサロンの筋肉内投与およびイソフルランによる麻酔と心肺への影響の評価と、無処置で用手保定した時との比較.

Journal of the American Veterinary Medical Association 2019 Jun 15;254(12):1427-1435

要旨: 本研究は、セキセイインコにおけるアルファキサロン筋肉内投与およびイソフルラン吸入による麻酔効果、心肺効果を評価し、これらの薬剤を使用した時と用手保定の時を比較することを目的として行われた。アルファキサロンの投与量比較のため、鳥にアルファキサロンを5 mg/kgまたは10 mg/kg筋肉内投与した(A5群およびA10群)。また、処置の比較のため、アルファキサロン10 mg/kg筋肉内投与、またはイソフルランのフェイスマスク吸入、もしくは無処置で用手保定する3群(A群、I群、M群)に分けた実験も行った。鎮静の発現時間、深度、持続時間、心拍数、呼吸数、覚醒時間を評価した。処置の比較実験では身体検査と血液ガス分析も行った。結果として、A5群の鳥はすべて鎮静状態になったが、仰臥位にはならなかった。A10群では6羽中5羽が立ち直り反射を失ったが、侵害刺激反射を失った鳥はいなかった。初期効果発現までの時間はA5群よりA10群で有意に短く、覚醒までの平均時間はA5群よりA10群で有意に長かった。血漿中乳酸濃度はA群およびI群よりもM群で有意に高かった。アルファキサロンを10mg/kgで筋肉内投与することは、短時間の低侵襲な処置において、イソフルラン吸入や用手保定に代わる有効な選択肢となりうることが示された。

感想: イソフルラン吸入麻酔の代替としてアルファキサロンの筋肉内投与が有効な手段であるということは、セキセイインコの臨床現場において非常に有意義であると感じました。セキセイインコにおけるアルファキサロンの適切な投与量についてのさらなる研究が必要だと思いました。

2023年8月3日実施(担当: 土肥)

Evaluation of the Two-Point Ultrasound-Guided Transversus Abdominis Plane Block for Laparoscopic Canine Ovariectomy犬の腹腔鏡下卵巣切除術における2点超音波ガイド下腹横筋面ブロックの評価

Animals 12.24 (2022): 3556.

要旨:腹横筋面(TAP)ブロックは、腹壁と腹膜の脱感作を引き起こす局所領域麻酔技術である。犬においては、これまでの実験によって2点の領域で麻酔液を注入することが最良であるという結果が示されているが、臨床データは存在しなかった。本研究では、腹腔鏡下卵巣摘出術を受けた犬における2点注入TAPブロックの術中、術後の鎮痛効果の評価を行った。各26頭ずつの犬が吸入麻酔麻酔のみの対象群と吸入麻酔とTAPブロックの併用群(TAP群)の2群に分けられ、評価された。

TAPブロックは、超音波ガイド下で片側腹部ごとに肋骨下と頭側から腸骨に向かって実施された。 手術中の終末呼気イソフルラン濃度(EtISO)と術後24時間の痛みが評価された。対照群は、卵巣切除中に有意に高いEtISOを必要とし、TAP群よりも高い術後疼痛スコアを示した。TAP群では、術中または術後のレスキュー鎮痛の必要数が少なかった。TAP ブロックは、腹腔鏡検査後の術後疼痛管理を改善するために実施可能であり、全身薬の使用量を減らすことで副作用の可能性を減らすことができる。

感想:TAPブロックの内臓痛に対する効果は議論が分かれているとの記載がありました。喋れない動物に対して、局所領域麻酔の鎮痛効果範囲の評価の難しさを感じました。

2023年7月21日実施(担当: 目黒)

Epidural anesthesia in dogs undergoing hindlimb orthopedic surgery:effects of two injection sites

The journal of Veterinary Medical Science 84巻3号 p.457-464 2022年1月

要旨: 前向き臨床試験で、後肢の整形外科手術における腰仙骨間とL5-L6間の硬膜外麻酔の効果について比較した。98頭の犬をランダムにL7-S1投与(LSグループ)とL5-L6投与(LLグループ)に分け、同様の薬用量で局所麻酔を行った。(1mg/kgの0.5%ブピバカインと0.5mg/kgの1%モルヒネ)術中のレスキュー鎮痛(iRA)はフェンタニル1㎍/kgとし、平均動脈血圧が刺激前より30%を超えた時点で投与した。硬膜外麻酔の処置失敗、iRA、低血圧、運動抑制の解除、術後の副作用については記録された。硬膜外麻酔の処置失敗は、LSグループで7/47(15%)、LLグループで8/51(16%)であった。(P=1.00)iRAは、LSグループで21/40(52%)、LLグループで13/43(30%)の犬にそれぞれ投与された。(P=0.047)低血圧の発生はそれぞれ、LSグループで10/40(25%)、LLグループで16/43(37%)であった。(P=0.25)固有受容感覚の欠損残存はそれぞれ、硬膜外麻酔の8時間後においてLSグループで3/26(25%)、LLグループで13/26(50%)であった。(P=0.01)24時間以内に固有受容感覚が回復しなかった犬1頭(LLグループ)は36時間以内には回復を認めた。術後の尿閉、搔痒症、神経損傷は認められなかった。L5-L6での硬膜外麻酔はiRAを有意に減少させたが、固有受容感覚の回復が遅延した。iRAの発生率を維持したまま固有受容感覚の回復遅延を軽減できるブピバカインの用量を決定するためには、さらなる研究が必要である。

感想: 小動物臨床の現場において、硬膜外麻酔は疼痛管理で頻繫に用いられている手法ですが、犬の場合は腰仙椎間に投与するのが基本とされています。本論文はその点に着目し、本当にその場所に投与することが硬膜外麻酔を行う上での最適解なのかという疑問を投げかけ、研究で確認したという内容でした。この論文を読んで、普段臨床の現場で実際に行われている手法が本当に最大の効果を発揮するものなのか、そういった点について常に疑問を持ち続けることは、獣医療における最新の情報を知るうえで重要な視点になると感じました。

2023年6月15日実施(担当: 棚橋)

Retrospective evaluation of acute hyperkalemia of unknown origin during general anesthesia in dogs

Veterinary Anaesthesia and Analgesia, 2023, 50, 129-135

要旨: 本研究は、麻酔下のイヌにおいて、原因不明の高カリウム血症を呈した症例を報告し、その特徴を明らかにすることを目的とした。結果、α₂アゴニスト、μオピオイドアゴニストおよび吸入麻酔を1時間以上投与した犬では、急性高カリウム血症が起こりうることがわかった。したがって、低体温が認められないが、抗コリン薬に反応しない急性徐脈が見られた場合、特に前投薬でデクスメデトミジンを使用した場合には、直ちにカリウム濃度を確認することが求められる。

感想: 先行研究では、オピオイドの投与と血中カリウム濃度の上昇との関連は報告されていませんが、本研究においては全症例に投与されており、どのような機序で急性高カリウム血症が起きるのか、興味深かったです。高カリウム血症は生死を脅かす疾患であるため、もっとこのような研究が行われることによって早急な原因追及が進んでいってほしいと思いました。

2023年6月8日実施(担当: 諫山)

Assessment of sedation after intranasal administration of midazolam and midazolam-butorphanol in cockatiels (Nymphicus hollandicus) オカメインコにおける、ミダゾラム単独、及びミダゾラムとブトルファノールを組み合わせて鼻腔内投与した際の鎮静作用の評価

American Journal of Veterinary Research 2018 Dec;79(12):1246-1252

要旨: 本研究は、オカメインコにミダゾラムおよびミダゾラム-ブトルファノールを鼻腔内投与した際の鎮静効果を比較することを目的に行われた。鎮静効果は、眼の状態、姿勢、視覚刺激、聴覚刺激及び触覚刺激に対する反応と、保定中における眼の状態と拘束に対する闘争反応により評価した。また、保定中のストレス反応を評価するために心拍数、呼吸数、肛門温を測定した。結果として、ミダゾラムおよびミダゾラム-ブトルファノールの鼻腔内投与は、オカメインコに急速な鎮静作用をもたらした。ミダゾラム-ブトルファノールは、ミダゾラム単独投与と比較して、保定中の鳥と保定されていない鳥の両方でより深い鎮静をもたらした。ミダゾラムとミダゾラム-ブトルファノールはともにオカメインコに安全で効果的な鎮静をもたらした。

感想: インコに用いられる代表的な薬物の投与経路として挙げられる筋肉内投与より、侵襲性の低い鼻腔内投与で十分な鎮静効果が得られることが興味深かったです。

2023年1月6日実施(担当: 森)

Inhibition of insulin secretion from rat pancreatic islets by dexmedetomidine and medetomidine, two sedatives frequently used in clinical settings

Endocrine Journal 2013, 60 (3), 337-346

要旨: 本研究は、メデトミジンとデクスメデトミジンが膵臓におけるインスリン分泌に与える影響を明らかにすることを目的として行った。結果、両薬剤は濃度依存的にインスリン分泌を抑制することがわかった。また、その効果はPTX感受性のG蛋白質を介してKvチャネルを活性化し、Caチャネルを抑制することで発現することがわかった。
感想: 両薬剤は、その鎮静作用と血管収縮作用が主に知られているが、膵臓にも作用点が存在し、血糖コントロールにも影響を与えていることがin vitroの実験で証明されていて興味深いと思いました。その作用機序にはまだ未明なことが多く、それがこれから明らかになり様々なことに応用されていけばいいなと考えます。

2022年2月4日実施

Pharmacokinetics of dexmedetomidine, MK-467, and their combination following intravenous administration in male cats 猫への静脈内投与によるデクスメデトミジン、MK467とその併用における薬物動態

Journal of Veterinary Pharmacology and Therapeutics, 2016 Oct;39(5):460-8.

要旨: 無作為に抽出された、体重が5.1~0.7kgの7匹の6歳の去勢雄猫に対し、デクスメデトミジン[12.5(D12.5)と25(D25)µg/kg]、MK-467[300µg/kg(M300)]、デクスメデトミジン(25µg/kg)とMK-467[75.150.300.600ー600µg/kgのグループ(D25M600)の血漿中濃度のみを分析した]を静脈内に投与し、投与8時間後まで血液を採取した。血漿中薬物濃度は液体クロマトグラフィー質量分析法により分析した。2-コンパートメントモデルがデータに最適とされた。中央コンパートメント(mL/kg)、定常状態の分布容積(mL/kg)、排泄(mL/min/kg)、半減期(min)の中央値(範囲)はD12.5群では342 (131-660), 829 (496-1243), 14.6 (9.6-22.7) と48 (40-69) ; D25群では296 (179-982), 1111 (908-2175), 18.2 (12.4-22.9) and 52 (40-76) ; D25M600群のデクスメデトミジンは653 (392-927), 1595 (1094-1887), 22.7 (18.5-36.4) ,48 (35-60) ; M300群では117 (112-163), 491 (379-604), 3.0 (2.0-4.5) and 122 (99-139) ; D25M600群のMK-467については 147 (112-173), 462 (403-714), 2.8 (2.1-4.8) and 118 (97-172)であった。MK-467はデクスメデトミジンの体内動態に中等度の、しかし統計的に有意な影響を与えた。一方、デクスメデトミジンはMK467の体内動態に最小限の影響しか与えなかった。

感想: 薬物動態解析についての理解が深まりました。また、臨床試験段階にあるMK-467の猫での効果、およびほかの動物での効果について学ぶことができた良い機会となりました。

2021年12月10日

Pharmacokinetics and efficacy of trazodone following rectal administration of a single dose to healthy dogs 健康な犬にtrazodoneを単回直腸投与したときの薬物動態と有効性の検討

American Journal of Veterinary Research, Vol 81, No.9, September 2020

目的: 健康な犬にtrazodoneを単回直腸投与したときの薬物動態と有効性を検討する。

動物: 健康な成犬6頭

方法: 各犬にトラゾドン(約8mg/kg)を直腸から単回投与した。トラゾドンの錠剤を粉砕して粉末にし、5mLの水道水と混合し、赤いゴム製のカテーテルで直腸に注入した。鎮静効果の評価を行い,投与前後の所定の時間に血液を採取して血漿中のトラゾドン濃度を測定した。薬物動態パラメータはノンコンパートメント解析により推定した。

結果: 血漿中のトラゾドン濃度は、1頭の犬が中等度の鎮静状態になっても検出限界以下のままであった。トラゾドンの最大血漿濃度およびバイオアベイラビリティを補正した分布容積とクリアランスの中央値(四分位数[25~75%]範囲[IQR])は、それぞれ1.00μg/mL(0.66~1.40μg/mL)、10.3L/kg(7.37~14.4L/kg)、639mL/kg/h(594~719mL/kg/h)であった。血漿中トラゾドン濃度が最大となるまでの時間(中央値)は15分(範囲:15~30分),排泄半減期は12時間(IQR:7.99~12.7時間)であった。すべての犬が軽度または中等度の鎮静状態になり,トラゾドン投与後中央値30分(IQR,30~60分)で鎮静の程度が最大になった。副作用は認められなかった。

結論と考察: トラゾドンの直腸投与は、他の経路で鎮静剤や抗不安薬を投与することが禁忌である犬の鎮静および不安の治療に有効な選択肢であると考えられる。直腸投与後のトラゾドンの薬物動態と有効性をよりよく解明し、最適な投与量を決定するためには、さらなる研究が必要である。

感想: 論文で述べられていることを鵜呑みにするのではなく、疑問を持ちながら読むことが大切だと改めて感じることができた。