国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

コロイド・界面科学研究室

コスメの科学|質問コーナー

模擬講義「コスメの科学」を見て、「どうして?」「これって科学で説明できるの?」と思ったことを、コロイド・界面科学や物理化学の視点から少し掘り下げて解説します。

身近な化粧品の中には、光、微粒子、液滴、高分子、界面など、たくさんの科学が隠れています。

答えを覚えるのではなく、身近な「なぜ?」から科学の世界を覗いてみましょう。

光とコスメ

Q1. 日焼け止めは、どうして紫外線を防げるのですか?

太陽の光には、目に見える「可視光」だけでなく、目には見えない「紫外線」も含まれています。

日焼け止めの役割をとても単純に考えると、紫外線が肌の中まで届く量を減らすことです。

では、光を肌まで届かせないためには、どうすればよいでしょうか。

一つは、光を吸収することです。

日焼け止めには、紫外線のエネルギーを吸収する成分が使われています。紫外線を吸収した成分は、そのエネルギーを別の形に変えて放出します。そのため、肌の中まで届く紫外線を減らすことができます。

もう一つ重要なのが、光と微粒子との相互作用です。

日焼け止めには、酸化チタンや酸化亜鉛などの微粒子が使われることがあります。光がこのような微粒子に当たると、光はそのまま直進するだけではなく、散乱したり、一部が吸収されたりします。

つまり、日焼け止めは、紫外線が物質に吸収されたり、微粒子によって散乱されたりする性質を利用して、肌に届く紫外線を減らしています。

ここで、もう一つ面白い問題が生まれます。

粒子は、小さければ小さいほどよいのでしょうか?

実は、粒子の大きさが変わると、光の散乱の仕方も変化します。

私たちが目で見ることのできる可視光が強く散乱されると、塗った部分が白っぽく見えることがあります。一方で、粒子を小さくしていくと、可視光に対する散乱の仕方も変わり、見え方も変化します。

したがって日焼け止めでは、単に「紫外線を防げればよい」というだけではありません。

紫外線をできるだけ肌に届かせないことと、塗ったときに自然できれいに見えること。

この二つを両立させるためにも、粒子の大きさや、粒子がどのように分散しているかを考えることが重要になります。

ここには、光の科学とコロイド・界面科学が深く関係しています。

動画でも見てみよう:
紫外線と微粒子の関係については、模擬講義 「コスメの科学 第1話 光とコスメ」 でも紹介しています。光とコスメの関係を、動画でも考えてみてください。

もう一歩考えてみよう:
同じ物質でできた粒子でも、粒子の大きさが変わると、なぜ「見え方」が変わるのでしょうか?

Q2. 化粧をすると、どうして肌がきれいに見えるのですか?

私たちが肌を「きれい」と感じるとき、実際に見ているのは、肌そのものではありません。

肌に光が当たり、反射したり散乱したりした光が目に届くことで、私たちは肌の色や明るさ、凹凸などを見ています。

では、ファンデーションなどを肌に塗ると、何が変わるのでしょうか?

一つの重要な働きが、光の反射や散乱をコントロールすることです。

肌の表面には、毛穴や細かな凹凸があります。そのため、光の当たり方によって明るい部分と暗い部分が生まれます。この明暗の差が大きいと、私たちは凹凸を認識しやすくなります。

そこで、ファンデーションなどに含まれる微粒子が重要になります。

微粒子に光が当たると、光はさまざまな方向へ散乱します。すると、肌の一部分だけが強く明るくなったり暗くなったりすることが抑えられ、明暗の差がやわらぎます。

その結果、毛穴や細かな凹凸が目立ちにくくなり、肌がなめらかに見えることがあります。

これは、一般にソフトフォーカス効果と呼ばれる考え方の一つです。

しかし、粒子は小さければ小さいほどよい、というわけではありません。

粒子の大きさや形、粒子と周囲の物質との屈折率の違いなどによって、光の散乱の仕方は変化します。また、どの波長の光をどの程度反射・散乱するかによって、白く見えたり、透明感のある見え方になったり、色味が変化したりします。

つまり、化粧品は単に「肌に色を塗っている」のではありません。

微粒子の性質や配置を利用して、肌から私たちの目に届く光をコントロールし、「見え方」を設計しているのです。

ここにも、光の科学とコロイド・界面科学が関係しています。

動画でも見てみよう:
微粒子によって肌の「見え方」が変わるしくみについては、模擬講義 「コスメの科学 第1話 光とコスメ」 でも紹介しています。光の反射や散乱に注目して見てみてください。

もう一歩考えてみよう:
同じ肌でも、照明や太陽光の下では見え方が違います。では、光の色や当たり方が変わると、なぜ化粧した肌の見え方も変わるのでしょうか?

乳液と界面の科学

Q3. 水と油は混ざらないのに、乳液はどうして作れるのですか?

水と油をコップに入れてかき混ぜると、一時的には混ざったように見えます。

しかし、しばらく置いておくと、再び水と油の二つの層に分かれてしまいます。

では、乳液はどうして水と油を一緒にしておくことができるのでしょうか?

まず大切なのは、乳液では水と油が分子レベルで完全に混ざっているわけではないということです。

乳液の多くでは、一方の液体が非常に小さな液滴となって、もう一方の液体の中に分散しています。このような状態をエマルション(乳化系)と呼びます。

たとえば、油を小さな液滴にして水の中に分散させれば、見た目には水と油が均一に混ざったように見えます。

ところが、ここで新しい問題が生じます。

油を細かな液滴にすると、水と油が接している界面の面積が非常に大きくなります。

水と油の間には界面張力があるため、界面をたくさん作るためには仕事が必要です。

つまり、水と油を細かく混ぜて乳化するという操作は、単に二つの液体を混ぜているのではありません。新しい界面をたくさん作るために、外からエネルギーを与えているのです。

しかし、せっかく作った小さな液滴も、そのままでは安定とは限りません。

液滴同士が再び集まって大きくなれば、水と油が接している界面の面積を減らすことができます。そのため、乳化した状態は、放っておけば再び水と油に分かれる方向へ変化する可能性があります。

そこで重要になるのが、界面活性剤です。

界面活性剤の分子には、水となじみやすい部分と、油となじみやすい部分があります。そのため、水と油の境界である界面に集まりやすいという特徴があります。

界面活性剤が水と油の界面に並ぶことで、界面張力を小さくし、細かな液滴を作りやすくすることができます。

これが、乳液を「作る」ときの重要な働きです。

でも、ここで終わりではありません。

乳液を作ることと、作った乳液を長い間安定に保つことは、同じ問題ではないからです。

一度できた液滴も、時間がたつと動いたり、互いに近づいたり、集まったり、大きな液滴になったりすることがあります。

そのため実際の乳液では、界面活性剤だけでなく、液滴の大きさ、液滴表面の性質、液体の粘度など、さまざまな要素を利用して、乳化した状態をできるだけ長く保つ工夫がされています。

つまり乳液は、単に「水と油を混ぜたもの」ではありません。

本来は分かれようとする水と油を、小さな液滴として分散させ、その界面をうまく制御しているものなのです。

ここには、コロイド・界面科学が深く関係しています。

動画でも見てみよう:
水、油、界面活性剤が化粧品の中でどのように存在しているのかについては、模擬講義 「コスメの科学 第2話 コスメの中の『適材適所』」 でも紹介しています。水と油の境界で何が起こっているのかを想像しながら見てみてください。

もう一歩考えてみよう:
乳液を作ることができても、それだけでは長い間安定とは限りません。では、乳液の中の小さな液滴は時間とともにどのように変化し、それを防ぐためにどのような工夫がされているのでしょうか?