国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

生産環境科学課程応用植物科学コース

リレーコラム:コロナ鍋

2021.9.1
植物分子生理学研究室 山本義治

というわけで、応用植物科学コースの活動紹介も兼ねつつリレーコラムを始めます。初回は私、山本が露払いさせて頂きます。突貫工事なので文字ばっかりですが御容赦下さい。

タイトルの「コロナ鍋(ナベ)」というのは2020年度始めにトレンド入りした検索ワードですが、どんな鍋なのでしょうか。2021年8月現在も詳細は謎のままです。

ちなみに今の岐阜大学応用生物学部のコロナ関連の状況は、大学関係者全員が2回目のワクチン接種完了、10月からの講義は通常モード(リモートではない対面スタイル、教室定員はフルに使う)、ただし合宿や飲食を伴うパーティーは原則禁止、となっています。コロナストレス(?)による私の研究活動の停滞は2021年7月頃から解消しつつあります。中国からの留学生は結局入学辞退、ナイジェリアからの留学生は7月に来日、成田空港近くのホテルで2週間の隔離の後(ワクチン接種者だったのですが)無事来岐しました。

(以下山本研HPより再録)

2020コロナ備忘録

岐阜大学周辺のコロナ事情を記しておく。大学周辺の私周辺事情である。大学全般の総括でも岐阜大学全体の話でもない点は御理解頂きたい。

講義

2020年4月から講義はwebでの遠隔授業になった。具体的には音声付きパワーポイントファイルをweb上で再生するオンデマンドのシステムである(例年紙で配布していた資料はpdfファイルとしてwebからDL印刷してもらう)。実施してみると、通常のリアルな講義より個人的にはこちらの方が好みであった。私は声が小さいのだがファイル配信のシステムだと聴講者がボリュームを上げれば大丈夫なのである。また、パワーポイントの図が隅々までわかる(リアルな講義だとそんなには見えない)、講義中寝てる学生がいない(理論上、ということではあるが。オンデマンドで寝る人はいないはずだし、見ながらお茶も飲める)、質問をメールで受け付けると例年以上に質問が来た(回答もテキストで行ないすべて記録に残せた)、のもよかった。

ただ、学生が孤立している状態なので学習へのモチベーションが保ちにくい、という点が弊害らしい。通常の講義の場合には、友人とつるんでいるために学習へのモチベーションが発現しないという現象があり、相殺していると思わないでもない。とはいえ、それぞれ該当する学生の人種が違うので無視はできないようだ。3回に1回くらいはリアルな講義(質問の回とか)をして質問する機会を作れればそれで十二分なのではないかとも思った。

そうはいっても、かわいそうなのは新入学生である。入学後半年間は大学に来る機会がほぼなかった。ヨコの繋がりができる前に半年の孤立はつらかったと思う。後期はお上(文科省)の方針転換でリアルの講義や実習がある程度復活した。

その他のデメリットとしては、細胞生物学の講義で例年見せて触らせていた17億年前のラン藻の化石を直接見せられなかったこと。研究室に来れば見られる、とアナウンスしたが誰も来なかった(いや、私が嫌われているということではなくて。講義の感触は例年よりいいのである)。

受講確認を受講生からのメールで実施した。出席確認の代わりである。しかし「メールするの忘れてました」とさらりという学生がいたり、受講メールあり講義ファイルへのアクセス履歴なしの学生、アクセス履歴がないのにテストがそれなりに出来ている学生、等々が現れ、受講の現状は掴めていない。課程(学科)のルールで出席日数が足りないとテストを受ける資格がないのだが、実際の出席日数のカウントはできなかった。必修の講義なら「メールなければ欠席扱いにする」と宣言したのだが、選択の講義だとそこまで厳しくする理由がない。

確認メールのついでに質問する受講生がそこそこいたのはよかった。

ついでに通常のリアルな講義について現場の状況を少し紹介する。8:45から1コマ目が始まる。1コマ90分で午前中2コマ、午後に2〜3コマある。

午後一番の講義(3コマ目)は昼食後ということで寝てる学生がそこそこ出現する。割合でいうと5~20%程度であろうか。私はどちらかというとメリハリのない話し方をするので、寝る学生は他の講義よりも多いような気がする。講義内容を深めに設定しており、ちょっと聞いて即わかる、という話ではないのも眠気を誘うようである。睡眠学生が2割まで上昇すると、講義室の状況は面白いことになる。睡眠学習って効果あるのかな、とか思いつつ私のやる気は消えてしまうので途中でも講義を終了する。かわいそうなので寝てる学生を起こしたりはしない。が、講義が終了すると皆起き上がるのは不思議なことである。

ということになるので3コマ目はよい条件ではない。

1コマ目は人気が悪く、選択講義の場合講義登録する学生数は減少する。遅刻してくる学生もいる。特に冬に多い。冬は出席率自体も低下する。4コマ目、5コマ目は学生が疲れており集中力に欠ける。ので講義のベストタイムは2コマ目(10:30-12:00)のみということになる。

夜10時に寝れば講義中に眠くなることはない、と学生には一度は言うようにはしているが、夜10時に寝る大学生なんて日本中探してもどこにもいない。大抵1〜2時である。そして自宅生なら6時、下宿生なら7時半に起きるのである。足りない睡眠は講義中にとり、夕方からのサークルやバイトに備えるのである。

レポート課題

私の講義では毎年レポート課題を出している。直接的な狙いはライティングの向上だが、追試の代わり、規格外学生の発見という目的もあったりする。今年はpdfファイルの提出を求め、全員分のレポートを一つのファイルにまとめて受講生全員が読めるようにしてみた。学生間のヨコの繋がりを期待してのことであるが、効果は未確認。ヨコの繋がりが特に求められる講義(植物コース(学科の下の単位、専攻みたいなもの)の学生25名が受講する講義)については、4名ごとの班分けをして、班内での相互レビューを行なってみた。相互レビューはMS-Teamsを使ってリモートで行えるようにセットアップした。学生が望めばファイル交換とオンライン話し合いができる。これも効果は未確認。

ちなみに学部2年生(19〜20歳)ではまともな文章(日本語)が書ける学生は少数である(山本調べ、岐阜大の場合)。レポートを論理的な構成にするには吟味して鉄板の知見を集めそれを土台にして整合性に留意しつつ組み上げるというのがセオリーだが、そんなレベルの高い話ではない(いや、決して高くはないのだが)。 多数の学生は自分の主張の論旨を厳密に把握できていないだけでなく、論理、さらには語法までもが破綻する者もいる。端的に言えば出たとこ勝負の一筆書きで仕上げているような感じである。一筆書きは経験値と才能のある者のみに許される技なのではあるが。通常は3年生になって春からレポート課題の山でしごかれ、秋頃になって徐々に書けるようになっていく。ついでにいうと、まともな日本語が書けないのにちゃんとした英語が書ける可能性は万にひとつもない。

破綻した文章を読むと、自分の美的センスをやすりで削っているような感覚が生じる。労災申請したいくらいの作業である。

私が学生の時には「博士論文を書いてようやく日本語が書けるようになる」という説が広く流布していた。博士論文を書くのは27〜8歳である。母国語といえども正しい語法で、論理的、意図通りに、一意的に( 誤読されないように)、 読みやすく書くのは実は難しい。例えば、新聞の投書欄(ネットのもの)や某大手通販サイトの購買者レビューには許容外のレベルのものが相当数ある。ネットの記事もひどい。

論理性が求められるのは科学者の文章だけ、と考える方がおられるかも知れないが、内部矛盾を含む非論理的な文章に対しては「結局何がいいたいの?」という感想しか返せなかったり、説得力に欠けたりする。ビジネスの場においてはまず信頼度が低下し、さらに不誠実さや隠された計略への疑念を呼び起こす。ということで論理性の破綻した書類は警戒される。胡散くさい書類をそうでないように見せるためにも論理性を意識する必要がある(すいません、ジョークです。が、一番胡散くさい書類は論理的に見えるように作ってある、という真実も1)。

テスト

テストはオンラインでは実施できない。2020年度前期にはレポート課題と受講確認のみでお茶を濁したが、成績の評価はほぼ出来ておらず必修の講義は大恩赦状態となった。後期末にはコロナ状況は前期末よりかなり悪化していたが、社会がコロナに慣れてきたのとお上の方針によりリアルな筆記テストを実施できた。100枚弱の解答用紙を触るのは気を使う。まとめて70%エタノールに漬けようかと一瞬思ったが、ペン書きが混ざってるとひどいことになるのでやめた。採点してみると全て鉛筆書きであった。次回はジャブ漬けにする予定。

学生プレゼン

「ゲノム生物学」という講義では例年受講生全員が10分弱のプレゼンを行う。プレゼンは紙資料配布、パワーポイント画面表示、口頭説明、のセットである。今年はマイクロソフトのTeamsというツール(大学が契約している)を使ってオンラインで実施した。これも予想外にうまくいった。20人くらいまでならオンラインの会議や議論は快適である。1名だけ走行中の車からスマホで参加するというチャレンジをした学生がいたが、通信が安定せずうまくいかなかった。時代はそこまでは進んでいないらしい。

実習

私の担当実習は組換え系なので実験中窓を開けられない。のでリアルな実習はなしにして、学生が行うはずだった実験を動画に撮り、それをwebで観られるようにした。それと、そのときのデータを配布して学生に解釈してレポートにまとめてもらった。知識としては知っている操作を実体験することが実習の主要な目的だったので、動画閲覧では多分効果が薄い。が、他に方法を思いつかなかったので割り切ることにした。みんなコロナが悪いのである。

会議

会議はすべて遠隔になった。お茶を飲みながら参加できるし、意外に発言しやすい。非常に快適である。コロナ収束後の会議も引き続きすべて遠隔にして欲しい、に一票。

大学周辺のお店

大学前のパチンコ店は早々に撤退し更地になった。新しくできたファミレスも撤退。フィリピンパプ(あるのだ)はクラスターを二度も出し大苦境。

飲食店はテイクアウトサービスがコロナ下での生命線である。大学前のピザ屋は、ピザ窯内蔵のカスタムミニバンを新調し、訪問テイクアウトを行っている様子。その近所のインド料理屋は軽トラに手作りの木製屋根をつけて訪問販売に使っている。

若い人はそういう工夫ができるが、お年寄りがやってる店だと新しい状況に対して自分で戦略を考え適応するのは多分無理である。地銀のサポートがあれば延命できるが、地銀が倒れたら大変である。拓銀がなくなった後の北海道はひどかった。

お気に入りのランチの店にはリスクを計算しつつできるだけ通うようにはしたが、限界がある。市内の感染者数が増えると全く外食しなくなった。 飲み屋は苦戦して瀕死のはずだが、行ってないのでよくわからない。

研究室

市場ではエタノールや殺菌液は入手困難になっていたが、 幸いウチのラボはバイオ系であり、エタノールのストックがたくさんある。手の消毒のための用意には困らなかった。

マスクが不足していた2020年春にはマスクの不織布とやらの組成を調べ、それとなく似たもの(機械の油を拭くための紙ぞうきん、耐水性)を購入し自作マスクの材料としてラボの学生に供給した。が、実際にマスクを自作して使用した学生はいなかった。そのうち市販マスクが出回るようになった。

エアコンを使う際に必要になる気がしたので、プラズマクラスターの空気清浄機を春頃早々に購入した。ラジカル放出のアクティブ空気洗浄を行う(いわゆる行ってこい型)。この空気清浄機のせいで緑茶の葉が変色したような気がしたのだが、今もって原因は不明である(情報求む)。夏と初冬は窓を開けつつエアコン運転をしていたが、真冬の岐阜はあまりに寒いので窓閉鎖+空気清浄機+エアコンにした。

研究室主催のパーティーは一切なくなった。予定していた泊まりのラボ旅行も中止である。一度だけ無理をして谷汲寺へ行った(11月)。大学から車で三十分弱のところにある。新人学生が見つけてくれたジビエのレストランでお昼を食べた。こういう行事がないと研究室の雰囲気を保てない。2020年度はやりにくかった。毎年新人3年生には街中まで車で出向いてピザを御馳走することにしていたのだが、当然行けなかった。

岐阜大に赴任して以来毎年2〜3回はバーベキューをしていた(演習林での宿泊の際やコースの歓迎会)。2020年度はバーベキューなしとなり調子が狂う。シニア学生は筑波や東京の友人とリモート飲み会をしていた。若者は適応力高いのである。

私の仕事時間は減少した。夕食を必ずウチで食べるようにしたことと、バスを避けたい家人の送り迎えが入ることがあったのが直接的な原因であるが、長時間仕事する気持ちになれなかったのも大きい。あまり認めたくはないが、コロナは私にはストレスになっていたようである。気晴らしのための行動ができなかった訳ではないが(渓流釣り、例年以上に行った)、先が見えないということ自体がストレスを生んでおり結局は解消されなかった(継続中)。学会や出張がなかったのも大きい。

留学生

2020年度4月に中国とナイジェリアから留学生が来る予定であったが、3月の時点で10月入学へ切り替えた。様子を見ながら9月の時点でさらに翌年4月入学へと切り替えた。国費留学生の場合は入国が遅れるとその間の奨学金がカットされるのと、3年間で学位取得出来ないとペナルティがつくので入学後遅れて入国という事態は避けたかった。私費留学生の場合は「日本が落ち着いてから」という本人の希望で延期したのだが、世界中にコロナが蔓延しきった今振り返ってみると、4月に入学していてもよかったと思う。どこにいてもリスクがある状況で、日本、特に郊外にある岐阜大での生活はかなり安全だった。

ということで彼らは一年遅れの2021年4月入学へ向け準備中だが、緊急事態宣言発令(3/7まで)、ビザ申請対応作業凍結中であやしい気配である。

インド工科大学(アッサム州)とのジョイントディグリー(共同教育)プログラムの学生はノルマの海外での受講(インド人学生が日本へ、日本人学生がインドへ)ができず、講義、セミナー、会議、全てリモートになった。現地研究室への参加はサスペンド。知り合いがいるドゥルガプールの大学は2020年秋まで完全閉鎖だったらしい(研究室も)。あちらの大学はキャンパス内での寮生活が基本なので、学生も教員も実家に戻っていたのだと思う。

交通出張学会

幸いにして車通勤である。2020年は正月以降電車にもバスにも全く乗っていない。名古屋にも全く行っていない。名古屋駅前のナナちゃん人形(名鉄百貨店の高さ6mのマスコット)が大魔神化して歩いて去っていった、と言われたとしても、1年以上見ていないので否定できないのである。

2020年度は出張ゼロ回。訪問客はJSTとJICAからの2名1組のみだったが、一緒に食事にも行けずオフィスでお茶も出せない、という状況であった(すいません)。

2020年度は学会にも全く行けなかった。研究に対するモチベーションが下がり、新研究のアイデアは不作の年となった。進行中の研究に集中できている、ということかも知れないが、楽しさは半減である。研究意欲を高めるには研究関連の情報インプットが必須ということなのかも(論文情報ということではなくて)。学会懇親会でのよた話にこんなに重要な意義があるとは知らなかった。職場を離れた旅先で新しい研究アイデアを思いつくことが多かったのだが、そういった機会が失われたという面も大きいだろう。とはいえ、 愚痴っていても仕方がない。 こんな状況でも例年並に研究に邁進しておられる研究者はおられるのである。頭が下がる。

今思い出したが、2020年2〜3月頃のコロナ出始めの頃には、「ペスト禍により大学が閉鎖され故郷にこもっていた2年間の間にこそニュートンの最も優れた業績が成し遂げられたのだ(「プリンシピア」のこと)」、と研究者の間で言い合っていた。会議出張講義が大幅に減る今年こそ研究に集中できる、と若干の期待も込めつつ励まし合っていたのであった。今では苦い思い出である。あのころは私も若かった。

注1:「確実で安全な投資は利潤率が低く、利潤率の高い投資はリスクが高くなってしまいます。しかしお勧めのプラン(和牛繁殖事業への出資)では高利潤率でありながら元本は当社が保証させて頂いており、元本割れの心配がございません。」という説明は表面上は矛盾がない。つまりロジカルである。