国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Fujii et al. Virology 2024

Molecular characterization of an avian rotavirus A strain detected from a large-billed crow (Corvus macrorhynchos).

(ハシブトガラスから検出された新型鳥類ロタウイルスA株の遺伝学的解析)

Fujii et al., Virology., 2024

ロタウイルスA(RVA)は、ヒトを含む哺乳類・鳥類の幼若個体に下痢などの急性胃腸炎を引き起こす病原体として知られています。RVAは11 本の分節状RNAをゲノムとして持ちます。RVAの各分節は、RCWG(ロタウイルスの遺伝子型分類機関)によって設定された基準値に基づいて遺伝子型分類されます。これまでに様々な動物に由来するRVA株の遺伝学的解析により、この遺伝子型は宿主動物種と相関して分布することが明らかになっています。

一方で、鳥類に特有のウイルス株が哺乳類に感染した事例(種間伝播)も報告されています。具体的には、野外において鳥類様の遺伝子性状を有するRVA株が、ウシやキツネなどから検出されています。このような鳥類RVAの種間伝播には、自然界に生息する鳥類、すなわち野鳥が関与した可能性が考えられています。しかし、遺伝学的解析が実施された野鳥由来RVA株はわずか3株しかないため、種間伝播が起こった際に由来となった鳥類種を特定するための基盤的な情報は不足しています。例えば、日本のアライグマから分離されたRac-311株は、系統学的解析の結果から鳥類由来である可能性が示されていましたが(図1)、この株と類似した遺伝子性状を有する鳥類RVA株の情報がないため、感染源となった鳥類種は不明のままでした。そこで、本研究では、野鳥におけるRVA株の基礎的情報の拡充を目的に、日本のハシブトガラス(Corvus macrorhynchos)の糞便から検出されたRVAであるJC-105株の遺伝子性状を明らかにしました。

図1.png

相同性解析の結果、全11遺伝子中2遺伝子(VP4およびVP7遺伝子)において、JC-105株と既知のRVA株の相同率は、RCWGの定める基準値を下回ったため、本株のこれらの遺伝子分節は新しい遺伝子型と推定されました。そこで、RCWGに申請したところ、JC-105株のVP4およびVP7遺伝子は新しい鳥類RVAの遺伝子型(それぞれP[56]およびG40遺伝子型)に分類されました(図2)。RVA遺伝子型の中でもVP4・VP7遺伝子型は宿主動物種と特に密接な関係にあることを考慮すると、本結果は、JC-105株と遺伝学的に近縁な鳥類RVA株がカラスの間で維持されている可能性を示しています。

図2.png

一方、本株の残りの9遺伝子は、アライグマ由来鳥類様RVAであるRac-311株の遺伝子と最も高い相同率を示し、Rac-311株と同一の遺伝子型に分類されました(図2)。さらに、系統学的解析からも両株が近い関係性にあることが明らかになりました(図1)。これらの結果から、カラス由来JC-105株はアライグマ由来Rac-311株と似通った遺伝子性状を有するRVA株であることが明らかになりました。前述の通りこのRac-311株と近縁な鳥類RVA株は同定されていなかったため、Rac-311株の起源となる鳥類種は不明のままでした。今回、日本のアライグマから検出されたRac-311株とハシブトガラス由来JC-105株が近い関係性にあることが示されたことにより、野生のカラスが鳥類RVA株の哺乳類への伝播に関与していた可能性が考えられました。

以上、本研究では野生のカラスから検出されたRVAであるJC-105株の遺伝子性状を明らかにし、鳥類RVAの生態に関する新たな知見を得ることができました。本研究で得られた知見は、自然界における鳥類RVA株の種間伝播に野鳥が果たす役割や、哺乳類に感染性・病原性を示す鳥類RVA株の出現メカニズムの解明に繋がることが期待されます。

本研究は、北海道大学大学院獣医学研究院 迫田義博先生、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 高田礼人先生、鹿児島大学共同獣医学部 小澤真先生との共同研究として実施されました。