Matsuda and Okajima, JVMS 2025
Diversity of piroplasma species in small rodents and ticks captured in suburbs of Gifu City, central Japan
(岐阜市近郊の小型齧歯類およびマダニにおけるピロプラズマの多様性)
J Vet Med Sci. 87(1):43-51, 2025.
バベシア(Babesia)属はマダニによって媒介される原虫のグループであり、近縁のタイレリア属と併せピロプラズマと呼ばれます。ピロプラズマの中には動物及び人に、時に重篤な貧血・熱性疾患をひきおこす種も含まれるため、その分布と生態を把握することが重要になります。
日本では1999年、神戸で輸血由来の人バベシア症が報告され、野生齧歯類由来のBabesia microtiが原因であることが示されました。また、⽇本の野⽣動物におけるB. microti の検出も相次いでなされており、北海道、東北、関東、関西および南九州地域のアカネズミからのB. microti 検出報告や、⻘森県および⻑野県のヒメネズミおよび⻑野県のヤチネズミからのB. microti 検出報告が存在します。しかし、これらの多くは1990 年代から2000 年代における報告であり、⽇本の野⽣⼩型動物における最近のB. microti の感染状況については情報が少ないのが現状です。特に岐⾩を含む中部地⽅における調査例が極めて少なく、齧歯類とマダニにおける分布を把握することは公衆衛生上重要です。そこで本研究では、中部地⽅の野⽣⼩型齧⻭類における、B. microti を含むさまざまなピロプラズマ種の分布状況を明らかにすることを⽬的とし、広範囲な原⾍種を検出できるPCR 系を利⽤することで、岐⾩市近郊の野⽣⼩型齧⻭類検体からピロプラズマ遺伝⼦の検出を⾏いました。さらに、そのベクターとなるマダニについても採集を⾏い、同様の検出⽅法によってピロプラズマ遺伝⼦の検出を⾏いました。その結果、岐阜市近郊に生息するアカネズミからB. microtiを検出しました。遺伝子解析の結果、人への感染も疑われているOtsu/Hobetsu 型と呼ばれる遺伝子型であることがわかりました。さらに、これ以外にも我が国で初となる種々のピロプラズマ種の遺伝子が検出され、身近な環境に多様な原虫が生活環を形成していることがわかりました。
本研究は、松田優花さん(2024年3月卒業)の卒業研究として実施されました。