国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Okajima et al., Arch. Virol. 2024

Differential role of NSs genes in the neurovirulence of two genogroups of Akabane virus causing postnatal encephalomyelitis

生後感染を引き起こす二つの遺伝子群のアカバネウイルスにおけるNSs遺伝子の異なる役割

Okajima et al., Arch. Virol., 2024

アカバネ病は, アカバネウイルス(AKAV)によるウシ等の反芻動物の疾病であり, ヌカカなど節足動物の吸血によって媒介されます。アカバネ病には, 妊娠動物に感染したAKAVが胎盤を通じて胎仔に侵入することで起こる, 流産, 死産ならびに胎仔の先天的奇形を主徴とする「胎仔感染型アカバネ病」の他に, 若齢動物が発症する, 神経症状を主徴とした「生後感染型アカバネ病」の2つの病型がこれまでに報告されています(図1)。

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AKAVが属するブニヤウイルスの仲間の多くでは, 非構造蛋白質であるNSs蛋白質が重要な病原性因子として知られています。具体的にはNSs蛋白質は宿主の自然免疫システムを阻害し、これによりウイルスが免疫応答を回避し効率よく増殖するとされています。AKAVにおいては、胎仔感染型アカバネ病の原因ウイルス株ではすでにNSs蛋白質が病原性関連因子であることが示されていますが(Ogawa et al., J. Gen Virol. 2007)、生後感染型アカバネ病症例分離株では検討されていませんでした。

そこで私たちは、神経症状を発症した牛の脳から分離された生後感染型AKAV株であるKM-2/Br/06株(以下KM株)及びFI-1/Br/08株(以下FI株)に注目しました。この2つのウイルス株は遺伝子配列が大きく異なり、異なる遺伝子群に分類されます(図2)。すなわちこれら2株について検討することで、NSsの病原性への役割が両遺伝子群ウイルスの間で共通かどうかを調べることができます。そこでNSs遺伝子を遺伝子操作系によって欠損させたウイルス株をそれぞれの株で作出し、これらのマウスに対する病原性を検討しました。

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遺伝子群IIに分類されるFI株では、親株がマウスへの脳内接種により強い神経病原性を発揮したのに対し、NSs遺伝子欠損ウイルスでは病原性が大きく減弱しました。これは他のブニヤウイルス同様、NSs遺伝子が病原性に大きく寄与していることを示します(図3 FI株とFIΔNSs株)。

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これに対し、遺伝子群Iに分類されるKM株では、親株もNSs遺伝子欠損ウイルスも同等の強い神経病原性をマウスに示しました(図3 KM株とKMΔNSs株)。このことは、KM株の病原性にNSs遺伝子は寄与しておらず、他の病原性因子の存在を示唆しています。また、これまでに知られているブニヤウイルスの仲間で、KM株同様NSs遺伝子非依存的な病原性を示す例は報告されていないため、本研究はウイルス学的にも非常にユニークな事象を示すものといえます(図4)。

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本研究は、農研機構 動物衛生研究部門および東京大学 獣医微生物学研究室の先生方との共同研究として実施され、当研究室博士課程の岡島美鈴さんの学位の基礎となる学術論文として発表されました。