国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Ito et al., Vaccine 2021

Safety enhancement of a genetically modified live rabies vaccine strain by introducing an attenuating Leu residue at position 333 in the glycoprotein

(G蛋白質333位へのロイシン残基導入による遺伝子改変狂犬病ウイルス生ワクチン株の安全性向上)

Ito et al., Vaccine 39(28) 3777-3784, 2021

人の狂犬病の95%以上がアジア・アフリカといった途上国で発生しており、その主な感染源は犬からの咬傷とされています。すなわち狂犬病の制圧には、これら国々の犬へのワクチン接種が重要です。しかし放浪犬が多く、また医療資源に乏しい途上国では、注射器を用いず安価で経口的に投与可能なワクチンが求められています(図1)。

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経口生ワクチンとして市販されている弱毒狂犬病ウイルスSAG2株は、ウイルス粒子の表面にスパイク状に突出するG蛋白質の333位(G333)のアミノ酸(強毒型はアルギニン、Argまたはリジン、Lys)が弱毒型(グルタミン、Glu)に変異しており、この1アミノ酸変異によって病原性が失われていることが知られています。しかし、SAG2株の弱毒変異はたった1塩基のヌクレオチド変異で強毒型のLysに置き換わり、病原性が復帰してしまいます。そこで、病原性復帰しにくい、より安全な生ワクチン株開発が求められています(図2上)。

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私たちは、ArgとLysのいずれの強毒型アミノ酸に復帰するにも2つのヌクレオチド置換が必要なロイシン(Leu)残基を、G333の弱毒化変異として利用することを考案しました(図2下)。そこで遺伝子操作系を利用し、生ワクチン株であるERA株のG333にArgからLeuへの変異を導入し、ERA-G333Leu株を作製しました。このERA-G333Leu株は、SAG2株と同様にG333株をGluに置換したERA-G333Glu株と同等の、マウスへの免疫原性と培養細胞での高い増殖性を示しました。これは、ERA-G333Leu株がワクチンとしての十分な効果と、製品化を考える上で重要となる高いウイルス産生効率を有することを意味します。重要なことに、ERA-G333Glu株は哺乳マウス脳で継代すると次第にG333がLysとなって病原性が復帰したのに対し、ERA-G333Leu株は弱毒のままでした。

これらの結果から、ERA-G333Leu株は免疫原性、増殖性を保持しつつ、より安定的に弱毒化したことが示されました。すなわち、G333の弱毒化変異としてLeu残基を利用することによる、安全性の高い狂犬病生ワクチン株の開発が期待されます。

本研究は、北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所・澤洋文先生、佐々木道仁先生との共同研究として実施されました。