国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 応用生物科学部

人獣共通感染症学研究室

Fujii et al., JGV 2022a

Characterization of an Avian Rotavirus A Strain Isolated from a Velvet Scoter (Melanitta fusca): Implication for the Role of Migratory Birds in Global Spread of Avian Rotaviruses

(ビロードキンクロから分離された鳥類ロタウイルスA株の特性解析:鳥類ロタウイルスの世界的拡散における渡り鳥の役割)

Fujii et al., J Gen Virol., 2021

ロタウイルスは、ヒトを含む哺乳動物・鳥類の幼若個体に下痢などの急性胃腸炎を引き起こす病原体として知られています。現在、発展途上国を中心に毎年約6万人の乳幼児がロタウイルス感染症により死亡しています。ロタウイルスは基本的に同一の宿主動物種の間で循環している一方、ある動物種に特有のウイルス株が異なる動物種に感染した事例も報告されています。具体的な事例として、鳥類のロタウイルスであるG18P[17]株が、下痢症を呈したウシおよび脳症を呈したキツネから検出されています。これらのことから、G18P[17]株をはじめとした鳥類ロタウイルスは、ヒトを含む幅広い動物種に感染し、病原性を示す可能性が指摘されています。興味深いことに、世界各地においてG18P[17]株の検出事例が相次いで報告されています。しかし、これらの遺伝学的に近縁なロタウイルス株がどのようにして広範囲に拡散したのかは未だに不明です。

本研究では、鳥類ロタウイルスの拡散における渡り鳥の役割を明らかにするために、1989年に渡り鳥であるビロードキンクロ(カモの1種)から分離されたロタウイルスRK1株の全遺伝子性状を解析しました。既知の株との比較解析の結果、RK1株は世界中で検出されたG18P[17]株、特に同年代に日本およびドイツにおいて分離された株と近縁な関係にあることが明らかになりました。今回の結果から、鳥類ロタウイルス株の世界的な分布に、国境を超えて広範囲に移動する渡り鳥が関与した可能性が示されました(図)。

前述の通りG18P[17]株が哺乳動物に病原性を示した事例が報告されていることから、同様にRK1株も哺乳動物に対する病原性を持っている可能性が考えられました。そこで、マウスを用いた感染実験を実施したところ、RK1株は哺乳マウスに下痢をおこすことが確認されました。このことから、渡り鳥由来ロタウイルス株の中には、哺乳動物の健康を脅かす可能性のある株が存在することが明らかになりました。

以上より、哺乳動物に病原性を持つ鳥類ロタウイルスの世界的な拡散に、渡り鳥の移動が関係している可能性が初めて示されました。今後、自然界においてどのような性状の鳥類ロタウイルス株が循環しているのかという点に着目し、研究を展開していく予定です。

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