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獣医病理学研究室

研究内容

研究内容

獣医病理学教室の主な研究

野生動物の病理学

猟犬を指標とした野外感染症の全国調査

 猟犬は,野外でダニ媒介感染症を始め種々の病原体に暴露される機会が多いので,猟犬を歩哨動物として,地域ごとの野外感染症,特にダニ由来人獣共通感染症の分布についてモニタリングを行っています。今までに九州(宮崎,鹿児島,熊本,沖縄),四国(高知,香川),中国(広島),中部(岐阜,三重,滋賀,富山,静岡,長野,新潟),東北(福島,宮城,岩手,山形,秋田,青森)について,猟犬約700頭から血液を採取し,各種の感染症の血清抗体調査を行ってきました。その結果,各地でジフテリア抗毒素,ブルセラ,トキソプラズマが広く検出され,レプトスピラが地方病性に依然として散見されます。犬由来のヘパトゾーンおよびバベシアは,中部以西で散見され,前者は屋久島で著しく高い陽性率(92%)を示しました。ボレリアについては,全国的に陽性例が分布するも,東北など北部日本で高い陽性率を示しました。これらのことから,猟犬は,野外の人獣共通感染症のモニターのための歩哨動物として有用と思われます。

対馬での猟犬の採血

感染症の病理学
  • ウマヘルペス9型(EHV-9)の病態解析

 1993年,動物園で集団発生したトムソンガゼル脳炎例から分離されたウマヘルペスウイルス9型(EHV-9)について,微生物学教室福士秀人教授と共同で研究,エマージング感染症の可能性を調べております。EHV-9は,実験的にげっ歯類,偶蹄類,伴侶動物である犬と猫,マーモセットで劇症脳炎を引き起こすことを確認し報告しました。各接種経路でのウイルスの動態を解明するために,全身が未脱灰のまま免疫染色が可能な「乳のみハムスターモデル」を開発し,EHV-9ウイルスの詳細な感染経路,妊娠動物への影響なども検討中です。最近の病態解析により,経鼻感染に加えて,経口および腹腔接種によるウイルスの動態を解明し,感染妊娠動物における流産の可能性を明らかにしました。このげっ歯類を用いたEHV-9の感染病理モデルは,広く他の神経向性ヘルペスウイルスの病態解明のモデルとなり得ると思われます。EHV-9のげっ歯類モデルの研究から,Dr. El-HabashiおよびDr.EL-Nahassのエジプト人研究者が学位を取得しました。

EHV-9 乳のみハムスター全身解析モデル

  • 野生および動物園動物における寄生虫症の研究

 野生動物における種々の寄生虫性疾患について分類し,その病態を明らかにしてきました。カワウでしばしば認められる胃虫では,複数種(Contracaecum属4種,Eustrongylides属1種)の異なる寄生虫が存在することを明らかにしました。その他,サギ類ではしばしば皮下へのダニ類(Hypodectespropus)が寄生していることも報告しました。

カワウの胃における多数の胃虫寄生(左) サギ類の皮下におけるダニ類(右)

サル類の病理学

 類人猿研究ネットワーク(GAIN)に関連して,各地の動物園で飼育されているチンパンジーやオランウータンの斃死に際しては,剖検や病理検査に協力しています。また,平田助教(生命科学研究支援センター)を中心に,京都大学霊長類研究所で飼育しているニホンザルの背景病変を調査し,特に,循環器病変の病理発生およびT細胞リンパ腫の腫瘍病理学的な解析を行っています。一方,サル類における抗酸菌症の病態解明について,また,クリプトスポリジウム感染症の感染病理学的解析も行っています。

新世界ザルにみられた抗酸菌症(右)

鳥類の病理学
  • 鳥類のAAアミロイド―シスの病態解明

 動物園で飼育している水禽類でしばしば認められるAAアミロイド―シスの疫学および病因学的な研究を進めております。特にフラミンゴ類では,肝および脾臓に高頻度にAAアミロイドが認められるため,環境要因も含めて病因学的な検討を行っています。一方,産卵鶏においても,ワクチン投与に関連して短期間に,斃死例も含め高率にAAアミロイド―シスが発生した事例を経験したので,その病態を食品衛生学教室(石黒先生)と共同で実験的に検討を含め研究しております。

AAアミロイドが好発するフラミンゴ(左)  同脾臓における高度なアミロイド症(右)

伴侶動物の病理学

 動物でもヒトと同様にがんなどの診断に病理診断が利用されます。ヒトと動物では発生するがんの種類が異なるために,ヒトの疾患の情報が必ずしも動物に当て はまらず,独自の研究が必須となります。一方で,ヒトと動物に共通の疾患もあり,動物の疾患をヒトの疾患の克服やメカニズムの解明に役立てることもできま す。

  • 伴侶動物の病理診断学

 犬組織球肉腫の特異性の高い診断マーカーとしてCD204が有効であることを示し,さらに犬組織球肉腫ではMMP-9の発現上昇がみられ,本腫瘍の高い転移能に関与している可能性を示唆しました。

犬の組織球肉腫のCD204陽性像

  • 伴侶動物の細胞病理診断学

 細胞学的診断の診断基準は一定ではなく,ゆえに細胞学的診断の科学的証拠としての評価が必ずしも高いものとは言えないのが現状です。よって診断に苦慮した 症例については,臨床経過や最終的な病理組織学的検索と合わせて,その詳細な細胞学的特徴を報告し,細胞学的診断基準の確立を目指しています。その例とし て,若齢ミニチュアダックフントに発生する特異なB細胞性リンパ腫を報告し,このリンパ腫は抗がん剤への反応が良く,迅速な診断が必要であり,細胞診断が 有効であることを示しました。また,細胞学的にリンパ腫と形態的に酷似する胞巣型横紋筋肉腫の報告では,リンパ腫のような独立円形細胞腫瘍の鑑別リストに 胞巣型横紋筋肉腫を加えるべきであることを提唱しました。今後も臨床検体の解析と実験的研究を組み合わせ,臨床の現場にも役立つ研究を進めていきたいと思 います。

また,多数の症例から得られた知見をもとに細胞診の実際をまとめた「小動物における細胞診の初歩の初歩~採り方・見方・考え方」(チクサン出版社,2009年,ISBN978-4-88500-666-1,¥9,500)を出版しました。

犬の骨肉腫の細胞像

  • 犬の血管肉腫の比較腫瘍学的研究

 伴侶動物の腫瘍に関する研究では,主に犬の血管系悪性腫瘍の悪性化機構を病理学的に解析しています。ヒトの血管肉腫は犬と同様に,臨床的に非常に悪性ですがその発生はまれで,研究が進展しない腫瘍の一つですが,犬では血管肉腫が頻発し,比較的研究対象にしやすい腫瘍で,本腫瘍の研究成果は小動物臨床のみならず,ヒトの血管肉腫の克服にも寄与しうると考えられます。

 現在までに,犬の血管肉腫においてRb/p16/Cyclin D1経路の異常は腫瘍増殖の起点であり,VEGFなどの増殖因子の自己/傍分泌環境が腫瘍化内皮細胞の増殖に関与することを病理組織学的に示しました。さらに悪性腫瘍化した内皮細胞はMT1-MMPにより活性化されたMMP2を用いて基底膜を分解,浸潤し,加えて抗アポトーシス因子の発現により,アポトーシス回避することを示しました。また,新生血管内皮細胞において発現するとされる形態形成遺伝子であるHoxの発現が犬血管肉腫の腫瘍細胞に発現しており,血管肉腫における腫瘍細胞は活性化した血管内皮細胞に酷似していることが示唆されました。以上の知見の実験的解析をめざし,犬血管肉腫に由来するヌードマウス皮下移植組織株を6株樹立し,それらの病理形態学的特徴,増殖因子および増殖因子受容体,血管新生関連 Hox遺伝子の発現は,移植の原発腫瘍と同様であり,血管肉腫のin vivo解析に使用可能であることを示しました。さらに,これらヌードマウス皮下移植組織株から,7株の細胞株を樹立しました。ヒトや実験動物を含め血管肉腫由来細胞株は世界的にも少なく,血管肉腫のダイナミックな研究を行う上で貴重な樹立細胞株です。現在,細胞株を用いた網羅的発現解析により,血管肉腫に高発現する分子の解析を免疫組織化学的および分子生物学的に進めています。また,microRNA分析による血管肉腫の悪性化機構の解析および早期診断法の開発の共同研究も開始しました。

本研究室で樹立された犬血管肉腫細胞株(JuA1)


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